遭難事件の巻
ギョレメに到着した翌朝、外に出てびっくり!! 昨日は暗くてよく分からなかったが、外の景色がこんなに凄いとは思いもしていなかった。
なんと穴の開いた奇岩石がいくつも村の周りを囲み、更に昨日降った雪が、岩山に積もって、お菓子の国みたいになっていたのだ。
その何ともいえない不思議な世界から今にも妖精が飛んできそうな雰囲気だった。
そんな景色にみんなはうっとりと眺めていた。
オラとようちゃんは、大喜びで外に出て、雪だるまやかまくらを作って遊んだ。
しかしムームは部屋から出てこない。
彼は、寒いのは嫌だと言う。
「おまえ、アイスランド人ちゃうんか!? 寒いところは得意やろ!?」
しかし、ムームは寒いところは苦手だと言う。
「ほんま変わった外人やなぁ!?」
そんなムームは、さておき、僕らはカッパドキアの奇岩石と、ピンク色がかった奇岩のパノラマが広がるローズバレーを観光しに行くことにした。
みかりん達は、ツアーに参加して行くと言っていたが、節約組のオラ、ようちゃん、マッキーの3人は自力で歩いて行く事にした。
昨日お世話になった観光案内所の兄ちゃんにキノコ岩とローズバレーの行き方を聞いてみた。
兄ちゃんは丁寧に道順を教えてくれた。
「そこのバス停でバスに乗って3つ目のバス停で降りるんだ、そこからT路地を右にまっすぐ行くと30分くらいでキノコ岩が見えてくる、そこから更に歩いて……」
どうやら歩きでも3~4時間あれば観光地をぐるっとひとまわりして帰って来られるみたいだ。
「ありがとう兄ちゃん!」
バスは、30分ほどで来るみたいなので、それまでその辺りをウロチョロして遊んでいた。ふと時計をみると……。
「やべぇ! バスの来る時刻だ!」
僕らは急いでバス停に戻った。
走りにくい雪道を、ダッシュで走った。その瞬間目の前をバスが走り抜けて行った……。
やはり間に合わなかった……。
「どうしよう、次はお昼ぐらいまで来ないみたいだし、あまり遅く出ると帰れなくなるよなぁ」
僕らが頭を抱えていると、観光案内所の兄ちゃんがこっちに近づいて来た。
どうやら、僕らの困った様子を見て、兄ちゃんが途中まで車で送ってくれるみたいだ。
「まじで! じゃぁ、お言葉にあまえて……」
「じゃぁ、10リラね!」
おい、金取るのかよ、まぁ、3人で割ればバスより安いし、いいか。
僕らは、途中まで近所の兄ちゃんの車で送ってもらい、そこからキノコ岩まで歩いていった。
キノコ岩は、雪を被っていて勿体なく感じた。
やはり、シーズンオフに来たのは少し失敗であった。
しばらくしてから僕らは、次の目的地、ローズバレーに向かって歩き出した。
ところがローズバレーまでの道のりは思ったよりも遠かった。
2時間くらい歩いただろうか、やっとローズバレーらしき、ボコボコとした形の岩山群が見えてきた。
「これかなぁ? 岩の上に雪が積もって、よく解らないなぁ……」
更に歩くと、お土産屋が見えてきた。
お土産屋の入り口に置いてある絵葉書と目の前の岩山の形とを見比べてみるとやはり、ここがローズバレーのようだ。
やっぱこの時期のカッパドキアはいまいちだなぁ……。
「すいませ~ん、誰かいませんか!?」
しかしお土産屋に人の気配はなかった。
すると突然「ワン、ワン、ワン!!」と犬の鳴く声が聞こえてきた。
店の奥からシェパード犬が出て来た。
もしかして店の主人は、このシェパード犬!? まさかなぁ……。
でもギョレメの宿までの帰り道を、聞こうと思ったのに犬じゃなぁ?
仕方なしに僕らは、最初に聞いた記憶の通り、道を進んで行こうとした。
ところが、お店の番をしていたシェパード犬が、ワンワン吠えたと思うと、オラの腕を引っ張り行かせてくれないのである。
何か買えとでも言っているのだろうか!?
でも商品の値段も分からないし……。
するとシェパード犬が、「ワン!」と一声吠えた。
ここの商品は全て1リラらしい……。
たしかに偶然にしては、面白いけど、僕らは、ここから早く帰ることが先決である。
無視して先を急ぐことにした。
すると、シェパード犬は僕らの歩く横をダーッと先に走り抜け、先で待っているのである。
どうやら彼は僕らを道案内するつもりである。
ありがとう『ジョン』、僕らは勝手にジョンという名前をつけた。
ジョンは僕らの先頭を走って止まり、僕らが追い付くと、また更に先を走って案内してくれた。
1時間ぐらい歩いただろうか?
村どころかどんどん山奥に入って行く気がした。
どうやら僕らは道に迷ったようだ。
シェパード犬=警察犬=道案内してくれる=これは間違いだったようだ。
このまま、夜の雪山を迎えたら僕らは凍死してしまうだろう。
これはまずい、なんとか乗せて帰ってもらえる車を発見しないと……。
しかし、山奥の小さな道には、一台も車が走っていなかった。
ようちゃんもマッキーも不安な形相を浮かべていた。
しかしジョンだけが相変わらず、楽しそうに雪山を走り回っていた。
しばらく歩いていると、後ろから小型トラックが走って来るのが見えた。
このチャンスになんとかトラックを止めないと今度はいつ車が通るか分からなかったので僕らは必死にそのトラックを止めた。
トラックの車内には4~5人の兄ちゃんが乗っていた。
仕事帰りかと思われる。
「すいません、僕らを近くの村まで連れいってもらえませんか!?」僕らは、落胆しきった表情を浮かべながら運転手さんに訴えた。
「OK! トラックの荷台に乗りな! 近くまで乗せていってあげるよ」運転手の兄ちゃんが笑顔で答えてくれた。
助かった。ジョンはきょとんしてこっちを見ている。
ジョンには悪いが、ここでお別れだ。
「じゃぁね、ジョン!」僕らはジョンに向かって手を振った。
ジョンは、寂しそうな顔でいつまでも、いつまでも僕らの方を見詰めていた。
たぶん、彼は、シーズンオフの今は観光客が来ないので寂しいのだろうなぁ。
だから僕らに遊んで欲しかったのだと思った。
結局僕らは、3回も車をヒッチハイクで乗り継いで、ようやく無事宿までたどり着くことが出来た。
着いた頃には、辺りは薄暗くなってきていた。
宿に帰ると別行動だったみかりん達はすでにツアーから帰ってきていた。
僕ら3人は、なぜ、犬になんかに道案内を任せたかの反省会を開き少し言い合いになった。
他のメンバーは、その光景を見て笑っていた。
そして彼女達の話を聞くと、なかなか楽しかったよと言う。
僕らは、期待していたぶん、ちょっとがっかりだったと言うと、みかりんは、雪のカッパドキアなんて、また素敵じゃない~とロマンチックな事を言う。オラはやっぱり、ツアーで参加した方が楽ちんで良かったんだなぁ~と反省した。
めぐみちゃんは、キノコ岩を見て、「“ちん○”そっくりだ!!」そんなふしだらな事を言っていた……。
キノコ岩近くのお土産屋はシーズンオフでガラリとしていた。僕らが近づくとお土産屋のオヤジは、ひさびさの客を逃してはなるまいと必死で商品説明してくるのでかなりウザイ。
ふと店の片隅を見ると生まれたての小犬達がいるのを発見した。めちゃ可愛い!! 僕らが小犬に見とれていると、店のオヤジがまたまた近寄って来た。
「この子達にミルクをあげるために10リラ下さい!!」
今度はそればっかりを言って僕らの後をくっついて来るのでめんどくさい。でも親犬が、ひょっこり立って動き出し、その後ろを子犬達がおいかけていく様子はかなり癒される。
「あの~、この子達にミルクを……」
ああ~、うっとしい~!!
「親犬がなんぼでも乳出すやろが!!」
シーズンオフのこの季節はお店側も必死なんだろう。でもシーズンは稼げるんだからしっかり稼いでおけよ! と思った。