ナミビアの首都はウイントフックで、標高1655メートルの高地にあり、1885年にドイツ帝国軍がこの地域を占領。1892年よりドイツ領南西アフリカの首都となった。
1ナミビアドル=現在のレート
1ナミビアドル=約17円 (2006年12月15日~20日)
砂丘の高低差は世界一で、美しさも世界一と言われている。
砂漠で大喧嘩の巻
「このハゲ坊主!!」
オラはビックリして飛び起きた。
隣のテントから聞こえるあけちゃんのかん高い声は、夜中に活動する野生動物の鳴き声よりも遥かに大きく辺りに響き渡った。
そう僕らは今、ナミブ砂漠の大平原のキャンプ場にいた。
ケープタウンから20時間のバス移動で、ナミビアの首都ウイントフックに到着し、そこから更にワゴン車で5時間の道のりだった。
ここは、キツネ・オリックス・ヒヒ・ダチョウが現れるまさに野生の地。
そんな中、あけちゃんと菊ちゃんは夜中に何をやっているのだ。
しかも、ハゲ坊主にしたのあけちゃんじゃないか!?
菊ちゃんが、インドで合流して以来、ふたりは常に一緒にいた。
四六時中一緒にいたらそりゃ、喧嘩も絶えないだろう。
オラは呆れてもう一度寝に入った。
翌朝、まだ辺りは暗いというのに運転手のジェフリーが、僕らを起こしに来た。
ジェフリーは、どっしりとした体格の口数の少ないおじさんだった。
今回のナミブ砂漠ツアーの専属ドライバーである。
僕ら、7人とジェフリーの近所の少年もアシスタントとして連れて来られていた。
そうだ、ナミブ砂漠ツアーの二日目の今日はご来光を見に連れて行ってもらう予定だったのだ。
オラは眠い目をこすりながらワゴン車に乗り込み、合計9名でナミブ砂漠の絶景地に向かった。
草木がポツリポツリと生えた砂漠の平原を真っ直ぐな一本のアスファルト道路が続いていた。
薄暗くてよくは分からないが、遠くの山は全て砂丘のようである。
僕らの乗ったワゴン車は、その中でも一番大きな砂丘の前でストップした。
「さぁ、あの砂漠の丘の上まで登って来るんだ!!」運転手のジェフリーが砂丘の頂上を指差して言った。
「ええっ! この丘登るの!?」寝起きでボーっとしていたみんなの顔が、急にシャッキッとした表情に変わった。
まだ完全に体が起きてないというのに、高低差100メートルはあろうかと思われる砂漠の丘をみんなは登り始めた。
裸足になり砂丘の砂を踏みしめると、足首まで砂の中にめり込みひんやりと心地好い。
一歩一歩進んでいくたび、適度な足裏マッサージ感覚が体感でき、なんとも気持ちがいい。
そしてほぼ頂上だと思うところで腰を降ろし、朝陽が昇るのを待った。
頑張って登った甲斐あって、僕らは感動の絶景を見ることが出来たのであった。
遠くの砂丘から黄色い光の線が伸び、まわりの砂漠の色がこげ茶色からワイン色、ワイン色からオレンジ色へと変わっていくようすが神秘的だった。
大地に広がったアプリコットカラーの砂漠の絶景を見たオラは日本から遠く遠く離れた異国の地に来ている事を実感させられたのであった。
ふと菊ちゃんの方を見ると、ミネラルウォーターのペットボトルを誤って砂丘の天辺から落としてしまったようで、慌ててそれを取りに行こうとしているのが見えた。
勢い余った菊ちゃんは何と、一回転して下まで転げ落ちてしまった。
周りに砂しかないおかげで怪我はなさそうだ。
菊ちゃんの砂まみれの顔を見てみんなは大爆笑だった。
朝食の準備をするジェフリー達と一緒に下で待っていたあけちゃんに、オラは、菊ちゃんの間抜けな顔を写真で見せるが、全く無反応であり、更にあけちゃんの顔は、ひきつった表情にも見えた。
夜中の喧嘩の件をまだ引きずってるのがオラには分った。
朝食が始まり、いつもは隣同士だった菊ちゃんとあけちゃんは全く別々の席に座った。
他のメンバーもあけちゃんの態度がおかしい事に気づき始めた……。
一旦キャンプ場に戻った僕らは、お昼から砂漠の見所(ソススフレイ)を観光するため再びジェフリーのワゴン車に乗り込んだ。
しばらく走ると舗装道路の途絶えたところで車がストップした。
どうやらソススフレイの入り口に到着したようである。
目の前には木でできた看板があり、「ソススフレイ5KM 4×4 ONLY」と書いてあった。
ジェフリィーのワゴン車は4WDではないので、僕らは途中まで歩いて行くか、有料の四輪駆動のジープに乗って行くかの選択だった。
砂漠の見所をまわるには、全部を歩いて往復すると合計22キロも歩かなければならなかった。
「ジープに乗れば10キロは歩かなくて済む。運賃はジェフリーの交渉で安くしてもらえるらしいけどどうしようか?」オラがみんなに訊いた。
この日はすごくいい天気で太陽が真上に昇る頃には50度近い温度になるみたいだった。
そんな灼熱地獄のナミブ砂漠を22キロも歩けるとは誰も思わなかった。
みんなは一つ返事でジープに乗って行くと答えた。
さすがは4WDジープ、風の影響で凸凹に波打った砂漠の道をグングン走って行く……。
途中、ウイントフックの宿で知り合った、20代前半のバックパッカーやす君とさとし君が歩いているのが見えた。
彼らは、この先、20キロ以上歩かないといけない事を、自分達のガイドからは聞いておらず、ジープ車には乗らなかったようだ……。
かわいそうなふたりに僕らは声援を送った。
5キロ先のジープの下車地は、所々に枯れ木や雑草が生えている砂漠の平原であった。
そこから僕らは歩いて絶景ポイントを目指した。
東へ3キロほど歩いて行くと小さな砂丘があり、その砂丘を登った反対側には枯れた湖(デッドフレイ)が現れた。
しかし、あけちゃんとようちゃんはその場にはいなかった。
どうやらデッドフレイを見ずに途中で脱落していたようだ。
デッドフレイから帰りのジープ乗り場に戻ると、あけちゃんとようちゃんが、枯れ木の下で涼んでいた。
「ここから西に3キロ進むと凄い絶景が待ってるみたいやし、今度こそ一緒にいこうよ!?」
しかし、木陰で涼んでいるあけちゃんとようちゃんは、行かないと言った。
それを聞いたマッキーも、脱落宣言をした。
更にはガイドのジェフリーまでもが、一緒に木陰に腰を降ろしてしまった。
僕らが目指す場所には見るからにしんどそうな大きな砂丘が立ち塞がっていたからである。
「さぁ行ってくるんだ!!」ジェフリーが砂丘の頂点に指をさした。
「そこに何があるの!?」ぷる君が、伸びた髭を触りながら訊いた。
「……絶景がある」ジェフリーが、めんど臭そうに答えた。
おい、おい、ほんまかよ!! 適当な返事やなぁ……。
僕らは、前半はしゃぎまわったせいもありかなり疲れていたが、ここまで来て凄い絶景とやらをお目にかかれなかったら絶対後悔すると思い、とにかく砂丘の頂上を目指すことにした。
砂漠の砂が足に絡みつきどんどん足元が重くなる。
はぁ、はぁ。まだ、あんな遠いのかよ……。
最後の難所は300メートルもある大きな砂丘を登っていく事になる。
足元を踏みしめる度に、上から落ちてくる砂が、足の上に覆いかぶさり埋まっていく……。
はぁ、はぁ、やっと着いた。
頂上まで登った時にはすでに足は棒になっていた。
「もう動けねぇよ~」オラはバタリと大の字に倒れた。
けれど、砂丘の頂上から眺める広大な景色はまさに絶景であった。
遠くの方まで見える砂漠の山々は、まるで赤い波が打ち寄せる海のようにオラには見えた。
夕方、キャンプ場に戻って来た僕らは、暑さを紛らわすために夕食時間までキャンプ場のプールで遊んでいた。
そこへやす君とさとし君がツアーから帰って来た。
そうとう疲れた様子だった。
彼らは、プールサイドの芝生に腰を下ろすと僕らに自分たちのツアーガイドの愚痴を言い始めた。
聞いていると凄くいい加減な男のようだ。
そのガイドの男はなんと、キャンプ場の予約も取らずに二人をここに連れて来たというのだ。
昨夜は偶然空きが取れたのでキャンプ場に泊まれたが、今日は泊まれるか怪しいようだ。
しかも、昨日の夕食は缶詰のビーンズとクッキーだけだったという。
何故そんなヒンソな食事になったかというと、どうやら一緒に行く予定にしていた他のお客さんグループが急にキャンセルしたので、あてにしていたお金が入らなかったからだ。
更に、信じられないことに、そのガイドはさとし君からツアー代とは別にお金を借りているらしい。
「そのお金、返って来ないんじゃない!?」オラははっきりと言ってあげた。
「やっぱそうだよね?」さとし君はがっくりと肩を落とした。
涙目になっているさとし君達があまりにも不憫に思い、僕らはふたりを夕食に誘ってあげる事にした。
「もし、今晩の食事もヒンソな物だったらお邪魔させてもらうかもしれないので宜しくお願いします」やす君が、寂しげな表情で言った。
夕方、あけちゃんと菊ちゃんはキャンプサイトの端っこで長い時間、話をしていた。
他のメンバーは、心配そうに遠くから見つめていたが、ふたりの問題なのでそっとしておいた。
しばらくして、話合いが終わったのか、あけちゃんはテントに戻り、菊ちゃんはその場でじっとしていた。
沈みかけの太陽の光が菊ちゃんの背中にぶつかり、僕らには逆光になっていて黒い影となっていた。
そっとしておけばいいのにぷる君が、菊ちゃんの方に近づいてそのあと慌てて戻って来た。
「き、菊ちゃんが泣いているよ!」
わざわざ僕らに報告し、その後の菊ちゃん、あけちゃんの行動もちくいち報告してくるようになった。
この日からぷる君は、芸能レポーター『梨元ぷる』と呼ばれるようになった。
その日の深夜、男性メンバーの話し声が聞こえてきたのでオラはテントから顔を出した。
空を見上げると漆黒の闇に満点の星が広がっていた。
まわりに灯りひとつない大平原だけあって、星がいっそう輝いて見えた。
今にもこぼれ落ちそうな星空の下で、菊ちゃん、ようちゃん、ぷる君はキャンプサイトの石壇にカメラをセットして、星空を撮影しながら遊んでいた。
オラも加わり、ナミブ砂漠の夜の星空を男4人で堪能した。
菊ちゃんが先にテントに戻ったので、ようちゃんとぷる君に菊ちゃんの様子を尋ねてみた。
するとどうやら、菊ちゃんとあけちゃんは夕方の話合いで別れ話をしていたらしい。
そして菊ちゃんはこの日、みんなと離れて旅する事を決意したようだ。
それを聞いたオラは、ほんとに菊ちゃんは出て行ってしまうのかなぁと、どんよりと暗い気持ちになった。
もし本当に出て行くことになろうものならオラは全力で止めようと思った。
インターケープ社のバスは、南アフリカ各地、ボツワナ、モザンビークまでも、運行している。
インドや東南アジアのバスに比べ、綺麗で、今まで僕らの乗ったバスの中で一番快適であった。
ドリンクが飲み放題なのが嬉しい♪
ウイントフックの宿のツアーデスクや街のインフォメーションではたくさんのツアーのパンフレットが有り、その中でナミブ砂漠の現地発着ツアーを探すのだがどれも結構、高額だ。
値段を抑えるため、レンタカーを借りて自分達で行こうと試みるが、クリスマス休暇のためかどこのレンタカー屋も車の空きが無い。
偶然、宿で知り合った、20代前半のバックパッカーやす君とさとし君が申し込んでいるツアーは、宿の送迎ドライバーが破格な値段でツアーを開催していると聞いた。
僕らも便乗しようとするが、他のお客さんで満員とのことで断念。
僕らは別の送迎ドライバーのジェフリーに交渉し、やす君らのツアーと同じ値段でナミブ砂漠ツアーを開催してもらう事に成功した。
ナミブ砂漠ツアー2泊3日 通常一人1900ナミビアドルのところを1300ナミビアドル(約22100円)