オラは有名人? の巻
ダマスカスのバスターミナル『マアルーラ』には、14時に到着した。そこから町の中心にある宿『アルハラ・メイン』一人1泊300ポンド(約750円)までタクシーで移動した。
ダマスカスの街には、巨大な城壁があり、その奥に古くからあるスーク(市場)やモスク(イスラム教の礼拝堂)などがある。僕らは、自由行動の時間をとり、早速、各々で観光に出かけた。
オラは、旧市街に足を運ぶことにした。旧市街の入り口にはスーク・ハミディーエという500メートルほどのアーケードが続いている。帽子屋・下着屋・香辛料屋・駄菓子屋など様々な店が軒を連ねており、アーケードの途切れたその突き当りには“ウマイヤド”という世界最古のモスクがドカーンと建っていた。
モスクの中では大勢の人が並んでお祈りをしている。そして女性はみな、 ベール(ねずみ男風の頭巾)を被ることが義務づけられているようで、持っていない人は受付で貸してもらえるみたいだった。
モスクのまわりには蟻の巣のような迷路が広がり、更に色んなお店がひしめきあって並んでいた。そのあたりをふらふら歩いているだけでも楽しくなる♪
オラは、美味しそうなケーキ屋さんを発見したので、一つ買ってみようと思い、お客の列に並んだ。
店内の陳列棚に色鮮やかに並べられたケーキを見てオラはよだれが出そうになっていた。
前に並んでいた男の人が、ケーキをいくつか選んで店員さんにお金を払っていた。
そして男の人は、いきなり買ったばかりのケーキをオラに差し出した。オラは、一瞬何がなんだか分からず、その場で立ちすくんでいると、「おひとつどうぞ」という素振りでそのケーキを勧めてくるのである。
自分で買うからいいよと断るが、男の人は、にこやかな笑顔で「いいからいいから」とケーキを渡してくれた。
オラは少し戸惑ったが、せっかくの好意なのでありがたく頂くことにした。
「シュクラン♪」(アラビア語でありがとうの意味)。へぇー、出会ったばかりなのに優しい人もいるんだなぁとオラは感心した。
ケーキを食べながらしばらく歩くと、今度はおじさん達がニコニコしながら写真を撮ってくれと言ってきた。
オラがデジカメで写真を撮って、写った画像を見せてあげると、満足した表情で、お礼にりんごとパンを差し出してきた。
オラは、写真を写しただけでそんな風にしてもらうのは、気が引けるので「いいよ」と断ろうとするが、この人達も「いいからいいから」と親しみ深い笑顔でりんごとパンを握らせてくれたのだった。
そして更に商店街を歩いていると今度は、お菓子屋の主人がオラにちょっと寄っていけと言ってきた。
どうやら伝統的なお菓子の作り方を店の中で見せてくれるようだ。
店の奥には、お菓子を作るための機械が置いてあり、ウイーンと音をたてて動いていた。
それは、1メートル程のクルクルと回る鉄板の上部に白い液体の入った器があり、手動でボタンを押せるようになっていた。
お店の主人が、オラにそのボタンを押してみろと催促するので、試しに押してみると器の下部から糸状に白い液体が流れ出した。
鉄板の上に落ちた液体は鉄板の上ですぐに固まり、白くて太目のクモの糸のようであった。
店の主人がそれを救い上げ、ザルの上に並べ始めた。そのお菓子を少し食べさせてもらうと、飴のようにとても甘かった。
どうやらケーキの上に乗せて販売するみたいだ。
そして近くにいた若い従業員がオラの方に近寄って来た。
オラがお菓子を食べて喜んでいる姿をみて、自分も嬉しくなり、心を開いたのか、自分の携帯電話に保存してある写真をオラに見せ、うちの嫁だと言って何故かアピールしてきた。
主人も店の裏にいた十歳位の自分の息子をわざわざ連れてきてオラに紹介してきた。
この街では店の前を通る度に、いろんな人が声をかけてくれる。
日本人が珍しいのかと思ったが、なんか有名人になった気分で、心がウキウキしてきた。
歩き疲れたので休憩がてらに喫茶店に入ると、ここでもオラは人気者だった。
厨房まで連れていかれ、みんなの質問攻めにあう羽目に……。今日一日で何人の人と接したのであろうか?
まるで街全体のみんなが友達のように感じたのであった。
シリアと言えば怖く危険なイメージをもっている人も多いと思うが全くの誤解である。初めはお金目当てなのかと疑ってしまったが
そんなことではなく、ただ親切心と社交的な考えの人達なのである。
オラはこの国がとっても気に入ってしまった。
夕方、みんなでネットカフェに行くことになり、歩いて向かっていた時の事……。
ムームとみかりんは、先にネットカフェで待っている予定だったのだが、何故かみかりんが、散髪屋からヒョッコリと顔を出して手招きしている姿が見えた。
「面白いからみんな来て!!」
彼女の誘いでお店の中に入ると、ここはクラブかと思わずツッコミたくなるような、トランスミュージックがガンガンにかかっている散発屋であった。
店には散発台が5つ並んでおり、カットの順番待ちをしているお客さんが5~6人椅子に座ってお店で出されたチャイをすすっていた。
ノリノリの音楽がかかっている中、ムームは、角刈りにカットされ、顔面にパックをされていてお化けのような状態だった。
肌の弱そうなムームはパックを剥がされる時、「Ouch! Ouch!」と叫んでいる。
みかりんに「なんでムームが顔パックされてんの?」と聞くと
どうやら店の人に手招きされて、ムームがああや、こうや言っている間に、ホレホレといって散発台に座らされたんだという。
呼び込み営業って! どんな散発屋ね~ん!
オラがムームのかっこよくなっていく様子を面白がってカメラで撮影していたら、「ちょっと見て!!」と声が聞こえてきた。
なんと今度はみかりんがお客さんの髭剃りをしているではないか!
「え~、素人のみかりんに刃物を握らすなんて怖すぎる!!」
みかりんも少し戸惑っているようだが、店員は「いけ、いけ」とみかりんの背中を押しているではないか!?
他の従業員もニコニコしながらその光景を楽しんでいた。お客さんの顔はちょっと引きつっているようにオラには見えた。
このお店は、他にも待っているお客さんもいて、結構忙しそうなのに、店員は僕らにチャイまで出してくれ、「まぁゆっくりしていけ」と言う。
お店のお兄ちゃんが、次は女の子を無料で綺麗にしてあげると言ってきた。
お店の兄ちゃんに遊ばれると察してか、マッキーは、NOを連発。
ノリのいいめぐみちゃんやみかりんは、散発台に座らされ、糸を使って上手に眉毛カットをされた。
ブローした後、カラースプレーまでされていた。できあがったふたりの髪型はまるで昔の暴走族のレディース状態であった……。
やはりお店の人に面白がって遊ばれているだけだったのだ。このお店は、従業員やお客さんまでノリノリでなんだか楽しそうな雰囲気であった。
「ほんま、この国の人間はユーモアありすぎで、おもろいわ!」オラは腹を抱えて笑った。
しかし、もしも自分の家の近所の散発屋がこんなんだったらちょっと嫌だなぁ……。
頭に乗せているのは、甘い飴のような食べ物だった
「そうだ折り紙!」
手のひらサイズの折り紙なら邪魔にならないし、日本独特だしいいね♪ という意見になった。
(みかりんとようちゃんの小話)
みかりんは、旧市街の一角で子供達に折り紙で鶴を折ってあげた。
日本にいた時から鶴の折り方を一生懸命練習してきたらしい。
その甲斐あって、子供達は大喜びで鶴を持って帰ったという……。
数時間後、ようちゃんが旧市街の路上で針金のミニアートを作っていると、街の子供達が集まって来た。
一人の子供がようちゃんに折り鶴を見せてきた。
ようちゃん「わぁ、鶴や、すごいなぁ!? オレも鶴作ってあげるよ」
ようちゃんは、大きな紙で折り鶴を作ってあげた。子供は大喜びで、ようちゃんの作った大きな折り鶴を持ち帰ったという。
しかしようちゃんの前には踏み潰された小さな折鶴が残ったそうな……。
「この話はみかりんには絶対内緒やで!!」と、ようちゃんは言っていた。
(マッキーの小話)
食堂で、子どもがなにやらやってきたので、出来上がった鶴を見せると、「しょーもな」とでも言ったのか、何かブツブツいって愛想なく去っていった。
折り紙なんて子どもはもう、もらい馴れているんかなぁ……。
しかーし、従業員のおじちゃんが興味津々でこちらを見ている。
「どうぞ」と渡すととても尊いモノかのように両手で受け取った。
鶴だからか? ためしにイチゴかごを作って渡してみた。
またまたどんな高級品かと思わせるように両手で受け取った。
ちょーかわいい。
おじちゃんはテーブルを拭くときも胸の抱え込むようにそっと折り紙達を抱えて拭いていた。
そして作業の合間、折り紙達をとても愛おしそうに見ていた。
時には子犬でもなぜるのかのように折り紙を撫ぜていた。
旅中、折り紙を一番喜んでくれたのは鶴のおじちゃんだったなぁ。