搭乗拒否事件二日目の巻
朝10時、日本大使館があるグリーンパーク駅で、ようちゃんと待ち合わせをしていた。
駅の階段を上がる途中、懐かしいジャンベの音が地上から聞こえてきた。
ようちゃんだ!! 昨日別れたばかりだが、何故か懐かしい気分になった。
ようちゃんはこの後もう一度空港に向かい、ニューヨークに向けて再チャレンジする。
その後の結果を報告してくれと頼み、ようちゃんに預けたパソコンを受け取って、別れた。
その後、オラ・マッキー・ダイタの3人は、日本大使館へ向かった。
日本大使館では副領事官が相談に乗ってくれた。僕らは今まで起った事を、事細かに説明した。
副領事官は眉間にしわを寄せながらも僕らの話を聞いてくれた。
航空会社側と僕ら側の両方からの落ち度を考えてくれたが、こういう事例があまりないらしく、アメリカ大使館に相談してみては、と教わった。
すぐさま僕らは、アメリカ大使館に向かった。幸い、日本大使館から歩いて10分位の距離に位置していたので近くて分かり易かった。
しかし、アメリカ大使館の前にはたくさんの人が並んでおり、そのまわりには銃を持った警官がいっぱいで厳重警備がされていた。
たぶんニューヨークのテロ事件から、警備が厳しくなったのだろう……。
並んでいる人達の手には、何やら紙を持っている様子。入り口のスタッフの人に聞いてみると、アポが無いと大使館の中には入れないという。
え~めんどくさいなぁ?
オラはその場で、パソコンに日本語で事情を書いた文章を打って、英語に変換し、それをスタッフに見せようと考えた。
「こんなところでパソコン打ってたら爆弾テロの犯人に間違えられるかなぁ~わははぁっ!!」と、オラは冗談を言いながらパソコンを打っていると、マッキーとダイタが突然真剣な顔になり、「早くパソコンを仕舞いなさい!!」と言って慌てだした。
オラはしぶしぶ大使館横の公園まで移動し、ベンチでパソコンを開いた。
その間にマッキーは、日本大使館に相談の電話をしに行った。
しばらくするとオラとダイタの方にふたりの警官が近づいてきた。警官は公園でパソコンを開いているオラを不審に思い、話かけてきた。
「お前達、ここで何している!?」
オラは警官に、アメリカへ飛べなかった事を説明した文章を、パソコンの画面から見てもらうことにした。
ダイタも、何故僕らがここに来たのかをもう一人の警官に一生懸命説明していた。
警官は、なんとなく僕らの事情が分かったらしく、「日本人は90日以内のビザは必要ない。アメリカ大使館に来たところで何の意味もないから、日本大使館に行きなさい!」と言って、僕らは公園を追い出された。
その頃マッキーは、日本大使館に電話で連絡し、アメリカ大使館に電話してくれないかと頼んでみたところ、そういう事はできないのだと断られたようだ。
そうして戻ってきたところに、オラとダイタが警官に囲まれているのを見て慌てて僕らの元へ戻ってきたと言う。
僕らは再度日本大使館にこの事を説明しに行った。
オラは副領事官に頼んで、直接航空会社に電話してもらおうと言った。
しかしふたりともそれは無理だろうと言う。
そこまではしてくれないし失礼だ、と言うのだ。
オラは、この後におよんで失礼もクソもないだろうと思い、腹が立った。
案の定副領事官は、直接は取合ってくれないようだ。
けれど副領事官は色々手を考えてくれた。
航空会社の代理店が飛べないはずの航空券を売るのも落ち度があるし、僕らが税関を通り、ボーディングチケットまで手に入れているのに飛行機に乗せなかった事は有力な向こうの落ち度になるのじゃないかと説明してくれ、上手く話を詰めれば代理店で全額返金できるんじゃないかと教えてくれた。
しかし、チケットを買った代理店の相手も頑固なインド人の婆さん。並大抵にはいかなかった……。
代理店のインド人の婆さんは、払い戻しはできるが1万円程度しか返ってこないと言う。しかもオラのチケットだけ表紙がないので、返金は無理だという。
「全額返ってこないと意味がないし、表紙は航空会社の人に返された時にはすでになかったんやから、そっちのせいやろ!!」
オラが文句を言うと、航空会社が決めた事だからこっちは知らないと、またまた責任転嫁。
しかしここで、航空会社のデューティーマネージャーの電話番号をゲットすることができた。
よし、ちょっと前に前進した気分だ。
お次は、航空会社を紹介してくれた旅行会社に行こう。
ダイタは旅行会社に行ってもなぁ……。
といつになく弱気な態度だ。
しかしオラは、航空会社を紹介したのはここのスタッフだし、何とか力になってくれると思っていた。
ダイタとマッキーの足取りはだんだん重くなる。
オラの後ろで信号に捕まったりしているふたりに、イライラした。
旅行会社は数分前に営業を終了していたが、ガラス越しから僕らの担当者が見える。
オラは両手で手を振っておねぇちゃんにアピールした。
何とか気づいてくれて、中に入れてもらえた。
そして僕らは事の成り行きを説明した。
「何とか航空会社のデューティーマネージャーの電話番号を手に入れるところまではできたんだけど、英語が苦手な僕らは、電話でうまく交渉できないんよ」
おねぇちゃんは、「搭乗拒否の理由をハッキリさせれば、何とかなるかも知れないわね」といい、航空会社のデューティーマネージャーに電話してくれた。
なんとおねぇちゃんの交渉で、デューティーマネージャーと大使館の副領事とが電話でやりとりしてくれるようになったのだ。
内容は、後からオラの携帯へ副領事官より連絡がくることになった。
「すげーよ、おねぇちゃん!!」僕らは感謝しまくった。
しばらくして、オラの携帯に副領事官から連絡が入った。
やはり、Eチケットやビザのことはたてまえで、搭乗拒否をしていたようだ。
以前、中国人がこの航空会社で日本人のパスポートを盗み、アメリカへ不法入国しようとした事があったらしい。
アメリカ側の入国審査で不法侵入が見つかり無事中国人は逮捕されたのだが、出国審査を通した航空会社はペナルティーを受けたという。
それからというものこの航空会社では、アジア人に対してのチェックが厳しくなっているのだという理由だそうだ。
副領事官は、一応話はついたので、たぶん明日空港に行けば、飛行機に乗れるんじゃないかと言ってくれた。
やったぁ!! ばんざーい!! これでやっとニューヨークに行けるぞ。
しかしマッキーは、安心するのはまだ早いと言う。
そうだな、相手が相手だけに油断はできんもんな!!
それにしても、今日の僕らはよく頑張った。
今晩は、前もって予約していた「ホステル639」に戻り、マッキーが日本から持ってきた、ちらし寿司の素で、寿司パーティーを開いた。
宿のネットでメールを覗いてみると、みかりんからメールが届いていた。
みかりんは、ニューヨークの宿泊名簿が5名からみかりん1人に変更されていたので、何が起こったのか訳が分からず不安に思ったという。
慌ててメールに何か届いてないかと調べてみると、僕らの緊急事態のメール。
みかりんは大変驚いたみたいだ。
ニューヨークで予約していた宿は治安が非常に悪く、ひとりでは不安でしょうがないという。
待ってろみかりん!! 明日にはニューヨークに行けるはずだ!! たぶん……。
そして、続けてようちゃんからのメールも届いていた。
ようちゃんからは、無事ニューヨークに到着したという知らせだった。
やったね!! ようちゃんが出国できたのなら……。
僕らのニューヨーク行きの期待は更に高まったのであった。
(しかし、他のメンバーはいまだ解決せずロンドン)
宿にもチェックインし、夜1時過ぎ無性にお腹が減り治安を心配しつつも一人で外出。
ハンバーガー屋さんへ! ここはニューヨークの黒人居住区のようだ。
路地にはいろんな所で数人の若者がたむろっている。
悪そうなヤツらだなぁ~……。
なんて思いながらも大回りして絡まれないように注意……。
そして、ハンバーガー屋の手前に差し掛かったとき正面から40~50人の少年たちが歩いてきているではないか……。
やっぱり恐っ。いったい何の騒ぎだ~?
バーガー屋の店員に尋ねるが『I don’t know.』って。
しかし、尋常ではない空気はオレにでもわかる。
その時。
パンっ!
パンっパンっ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)
銃声だ……。
すぐ近くだ。
何十台ものパトカーが通りに集まってくる。
40~50人の少年たちがいっせいに逃げ出す。やばぃバーガー屋から出られない!!!
と思いつつも、お腹が減ったので早くホテルに帰って食べたかった。
よし! 気を付けて帰ろう……。
大通りからホテルのある路地へ入ると数台のパトカーと沢山のポリスが懐中電灯片手になにやら探している。
そう、銃弾の薬きょうをポリスが探していたのだ。
ホテルから数十メートルのココが発砲現場だった。
あと少し事件が起こるのが早ければオレ打たれていたかも? 恐っ~~!!!! ハンバーガー片手にホテルに帰ると、ホテルの従業員&宿泊客一同『おまえ大丈夫か~?!!』って。
うん、この通り大丈夫!!!