見られる動物の種類や土地の広さは保護区によってさまざまであるが、その中でもマサイマラ国立保護区が有名である。ケニア南西部、タンザニアとの国境沿いに位置し、総面積は1,812k㎡、ほぼ大阪府と同じ大きさだ。
タンザニアとの国境を挟んで南に広がるセレンゲティ国立公園に隣接し、野生動物の数の多さではケニア国内で一番を誇る。
保護区内を探索するには、ゲームサファリと呼ばれる四輪駆動の車で動物達を見てまわるツアーに参加するのが、最もポピュラーだ。
値段は、日数や保護区内にある宿泊施設のグレードによってさまざまである。
他には気球に乗って大空から大草原や動物を拝むバルーン・サファリも人気が高い。
サファリツアーではマサイマラ国立保護区に加えて、フラミンゴの群れに遭遇できるナクル湖ツアーやマサイ族の村を訪れる観光マサイなどのオプションもある。
サファリツアーでは、花形ビッグファイブと呼ばれるライオン・ヒョウ・バッファロー・象・サイの5種の大型動物が全部見られたらラッキーとされていて、ガイド達の技量はビッグファイブをいかにお客さんに見せてあげられるかにかかっているらしい。
自分達へのチップの額はそれで決まると思っているのでガイド達は必死だ。
ちなみにケニアのお土産屋さんでは、大抵どこでも置物やTシャツなど、ビッグファイブグッズが売られているぐらい有名である。
残念ながら僕らは、サイだけが見られなかった(泣)。
ワクワクのサファリツアーの巻
さぁ、今日から僕らが、楽しみにしてたサファリツアーだ。
朝、9時半にガイドのベンがサファリ用のワゴン車で迎えに来た。
「今日は天気もいいし絶好のサファリ日和だぜ!」僕らはテンション高くノリノリで出発した。
サファリツアーを楽しむためにオラはひとつみんなに提案をしてみた。
「なぁ、みんな! せっかく全員いいカメラ持っているんやから、誰が一番たくさんの種類の動物を撮れるか競争せーへん?」
「うん、いいねぇ、やろうやろう♪」 写真撮影が上手なようちゃんが、答えた。
「え~、私カメラないで」めぐみちゃんが口を尖らせて言った。
「そっか、タンザニアでカメラも一緒に盗まれたんやったね、ごめんな」 オラはうっかりめぐみちゃんがカメラをなくしたことを忘れて発言してしまった。
「いいのよ、私は後でみんなに写真のデータを頂くから。
それに、私には今回のために秘密兵器があるねん」
めぐみちゃんは、ポケットから四角い物を取り出した。
見ると、ピンク色のプラスチックで出来たオモチャのような双眼鏡であった。
それは今から20年ほど昔に流行った、学研の科学と学習の本に付いていた付録らしい……。
「すげー、今でも大事に持っているんや!」
「そうやで、これすごい遠くの物でも近くに見えるねん! ほら、手に取るように見えるわ!」
「うわぁ、ほんまや、めっちゃよお見えるわ!」
さすが、めぐみちゃん、わざわざ高いお金を出して買うよりも、昔から家にあるその双眼鏡で世界を見ようと思う彼女の純粋な心がすばらしい……。
その後、自分の双眼鏡をなんども微調整をしながら景色を眺めていためぐみちゃんが、オラには可愛く思えた……。
途中お昼ご飯を食べ、いくつもの山や村を越え、サファリカーは悪路の道をひたすら進んで行った。
大雨後の深く刻んだ轍の跡がそのまま乾燥してしまったため、オフロードカーでしかまともに走れないくらいの凸凹道になっていたのであった。
車の揺れが強すぎて、時折内臓にまで響いてきそうな激しい振動が伝わってくる。
油断をすると窓ガラスで思いっきり頭を打ってしまうので窓側に身体をもたれさすこともできない。
ナイロビを出発してから5時間は経っただろうか、だが、まだまだマサイマラ国立保護区にはたどり着かないようなので、みんなはついウトウトしてしまう。
ときどき、ガラスが割れんばかりの頭部の衝撃音が聞こえてくるのであった。
途中マサイ族の村がいくつもあり、マサイの子ども達や仕事に出ているマサイ族達にひっきりなしにすれ違った。
村を走る時は、車はかなりスピードを落としていた。
木の根っ子のような棒を持っているのが、農牧の仕事をしているマサイ族で、槍を持っているのが猟をするマサイ族である。
すれ違うたびにフレンドリーにみんなは手を振ってきた。
オラも車の窓から手を振り続けた。まるで天皇陛下のように、手を下ろす暇もないくらい振り続けた。
中には家の中から子どもを呼び出し家族総出で手を振ってくれるマサイ族もいた。
しかしそこまでされると変な居心地の悪さを感じるようになってくる。
通常なら自分達の土地に見知らぬ外国人達がずかずかと足を踏み入るようなことは嫌うはずなのだが、逆に彼らはニコニコと歓迎してくれる。
それは僕ら観光客の存在は、彼らマサイ族にとっての大事なお客さんになるからである。
このツアーに20ドル程余分にお金を払えばマサイ族の村に招待してくれ彼らの伝統的な生活を垣間見ることもできる。
そして大抵の観光客は、彼らの作ったアクセサリーやグッズなどを買って帰ってくれるのだ。
いうなれば僕ら観光客は彼らにとっての大事な収入源なのである。
しばらく走ると、川に架かる小さな橋を渡ることとなった。
たくさんの牛達がその橋を渡るために並んでいて僕らの車もその後ろに続きゆっくりと進んだ。
橋を越えしばらくすると、真っ直ぐな木がポツリポツリと立っている一面緑の広大な平野が現れた。
オラは小さい頃からテレビのドキュメント番組で見ていた野生の王国の景色の記憶を思い出し、この風景が国立保護区の景色に似ていることから、徐々に野生の地に近づいて来ているのを感じてきた。
緑一色の景色に見とれていると、突然、ドドドドドドッと、どこからともなく大きな音が聞こえてきた。
運転手のベンが、急ブレーキを踏んだとたん、僕らの身体が前のめりになった。
その瞬間、道路の前を大きな動物の群れが横切ったかと思うと目の前が一瞬、砂煙で真っ白になった。
「シマウマだ! シマウマの群れだ!」前方を指差しぷる君が叫んだ!
その声に反応し、みんなは、一斉に身を乗り出した。
「うわぁ、スゲー!! これホンマの野生のシマウマだよねぇ?」
シマウマの群れは優に50頭を超え、その凄い数の群れが豪快に目の前を走り抜けて行ったのであった。
突然目の前で起こった衝撃的な光景にオラは興奮した。
しばらくして砂煙が引き、辺りに静けさが戻り、近くにもう動物がいないことを確認したベンが再び車を発進させた。
一瞬の出来事が終わり、われに帰った仲間達も再び自分の座席に座り直し普通の会話を始めていた。
しかしオラは興奮が冷めてないのか自分の心臓がまだバクバクいっているのが分かった。
赤土でできた凸凹の道をしばらく走ると、ようやくマサイマラ国立保護区に入るゲートをくぐった。
保護区は広く、何かジェラシックパークに入った気分でワクワクしてきた。
ナイロビからここまで約7時間の辛い道のりであったが、国立保護区に入った瞬間にそんな疲れも吹っ飛んでしまった。
さぁ今から夕刻サファリの開始である。
どんな動物に遭遇するか、楽しみだ!
ゲートをくぐってからすぐ見る景色は、右を向くと芝生の様な低灌木の茂みがあたり一面に広がっていて、左を向くとうっそうとした木々が立ち込める小さな森になっていた。
ベンが車を止め、左方向を指差した。
どうやら、左サイドに何かを発見したようだ!
「ライオンだ!」ようちゃんが叫んだ!
「えーっどれ? わからへ~ん」めぐみちゃんは、車のサンルーフから顔を出してキョロキョロとまわりを見渡した。
みんながすでにライオンの姿を発見しているというのにめぐみちゃんはまだ自分の双眼鏡を取り出し探しまわっていた。
「ほら、そこだよ、親子のライオンが居るだろ!?」 ようちゃんは写真に撮ってめぐみちゃんに見せてあげた。
「凄いねぇ、いきなりライオンの親子が見られるなんて♪ でも、もうちょっと近くで見たいなぁ」
「まぁ、まだ始まったばかりやからもっと凄いのも見られるはずだよ!」
そしてベンは次のポイントに車を移動させた。
「でた~! キリンや! すげ~、めっちゃかわいい!」 ぷる君は、思わず自分のカメラを握り締めた。
「オラな、小さい頃からキリンの背中に乗るんが夢やってん! ちょっと、乗ってきていいやろか?」
「駄目駄目、いざぽんは、ナミビアでもダチョウを追いかけていたし、ほんまに乗りそうやから怖いわ!」マッキーがあきれた様子で言った。
みんなの冷たい視線を感じたので、オラは、仕方無く車のサンルーフから、顔を出して動物を眺めるだけに留めた。
夕方から日没までの短い間であったが、象やバッファローなど1日目のサファリにしては十分なくらい色んな種類の動物を見る事が出来た。
そして辺りも薄暗くなって来たので、僕らを乗せたサファリカーはキャンプ場に向かって走り出した。
ふと、地平線を見ると大きな太陽が沈みかけていた。
しかし、何故か太陽にしてはもの凄いブルーだったので不思議に感じ、運転手のベンに尋ねてみた。
すると、地平線から昇ってきているのは月なのだと言う。
「スゲー、あんなお月様を見たの、生まれて初めてや!!」 みんなは初めて見る光景にあっけに取られ過ぎて、カメラにこの光景を収めるのを忘れていた……。
野生の王国ってホント凄い所なんだと実感させられたのであった。
キャンプ場に着いた僕らは備え付けのビニールテントの中に自分の寝る場所を確保してキャンプサイト内を物色してみた。
まずキャンプ場の入り口には古い木造の管理棟があり、そこで僕らの食事ができるみたいだ。
そして10張ほどのビニールテントが広場を囲んで、真ん中にはキャンプファイヤーができそうな焚き火のスペースがあり、管理棟から広場を挟んだ反対側のスペースには、シャワーボックスがあった。
なんとここのキャンプ場には、マサイ族がアルバイトをしにきていた。
ふたりのマサイ族が薪を集めてきて一生懸命火起こしをしようとするが、要領が悪いのかなかなか焚き木に火が点かない。
その様子を見かねたようちゃんが、マサイのふたりと火起こしを代わるとあっという間に焚き木がメラメラと燃え出した。
どうもこの国に来てからマサイ族に対する僕らのイメージが変わってきた。
ケニアにはマサイ族がたくさん住んでいる。
昔の伝統を守って村で生活しているマサイ族もたしかにいるが、最近では普通に近代的な暮らしをしているマサイ族も増えているのだと思う。
だから火起こしもろくにできないマサイ族が増えているのではなかろうか……。
その後、マサイのふたりは、ようちゃんが点けた焚き火の種火を元に、シャワーボックスの給水タンクのお湯を沸かすために、カマドに薪をくべてくれた。
僕らはここ最近ホットシャワーを浴びてなかったので、こんなへんぴな場所で浴びられるとは思わず、嬉しさで少し感動してしまった。
その日の深夜、テントの中で寝ていると猛獣らしき鳴き声があたりに響き渡っていた。
テントサイトのまわりには柵があるとはいうものの、腐りかけの杭で支えてある柵なので、オラにはあまりにも頼りなく思えていた。
もし象やライオンが僕らのテントのまわりをうろちょろしていたら……と想像すると、一人でトイレに行くこともできなかった。