お祈り会場の屋根の上で……の巻
サファリホテルでは洗濯物が干せるようにドミトリー部屋の窓の外に6~7本の針金が引いてある。
しばらくはここのホテルに滞在する予定だったのでオラは、スニーカーや厚手のジャケットなど渇きの悪い物を洗って干すことにした。ジャケットは針金に掛け洗濯ばさみで止め、スニーカーはそのまま針金の上にちょこんと乗せて干していた。
カイロ滞在2日目……。
朝5時半になるとアザーン(アラブのお祈り)の告知が聞こえてきた。
「アッラーフ・アクバル アシュハド・アン・ラー・イラーハ・イラーッラー……」
ビックリするぐらいの大きな音響で流れてくるので、ちょっと迷惑である。
僕らが泊まっているビルの1階がアザーンのお祈り場で、建物からはみ出るくらい、多くの信者達がひざまずいてお祈りをしている光景が見える。
信者達は毎日仕事の出勤前にわざわざここにきてお祈りをしに来ているのだと思うとオラは感心した。
ふと洗濯物の方を見ると、なんと、オラのスニーカーが片方無くなっている!!
真下にはお祈り会場の屋根がある。
よく見ると、屋根の上にオラのスニーカーが小さく見える。
どうしよう、何かの拍子に落ちてしまったようだ。オラは悩んだ。スニーカーは1足しかないし、旅前にマッキーが買ってくれた靴だった。
しかし会場の屋根に登ってスニーカーを回収するのはかなり面倒であった。
とにかく女子部屋のマッキーに声をかけ、事情を説明しなければ。
「別のスニーカーを買ってきてもいいかなぁ?」とマッキーに相談すると酷く酷く叱られた。
しかし、会場の屋根は道路から4~5メートルも高さがあるので、ハシゴがないと登れない。
悩んだあげくアザーンの会場の人に相談してみることにした……。
オラはスリッパを履いてアザーンの会場に行ってみた。
するとなんと、会場の隅にハシゴがあるのを発見した。
ラッキー!! いやもしかして、オラのように屋根の上に物を落とす人がよくいるのではないだろうか?
そのためにハシゴが常備されているのではないかとふと思った。
会場のおじいさんに屋根の上に靴を落としたことを伝え。
ハシゴを貸して欲しいと頼んでみた。しかしおじいさんは、NOだと言う。
え~そんなぁ。
「神聖な場所の屋根の上に登るなんて、ダメじゃ! このバチ当たりが!」そう思われたのかと一瞬思ったが、おじいさんは1時間後に来いと言っているようだ。
どうやら今からまたアザーンが始まるようであった。
そうか、ホッ。
オラは一旦出直し、アザーンが終わるのを見計らって会場に戻ってきた。
今度は快くハシゴを貸してくれるようだ。オラは早速ハシゴを伸ばし、屋根の柱に立て掛けてみた。
……
全くとどかねぇ……。
泣く泣くハシゴを会場のおじいさんに返した。
オラは頭を抱えてしまった。
腕を組み会場のまわりをグルグルまわってなんとかならないか考えた。
キラン!
頭の中でひらめきが走った。
屋根の柱のすぐ横に街灯の鉄柱が立っている。
こいつを伝って屋根に登ることができそうだ!
オラは早速街灯の鉄柱に飛び移り、まるで猿の木登りのように屋根の上まで登ることができた。
そして無事オラの落とした片方のスニーカーをゲットする事ができた。
しかし、ハッ! と我にかえって屋根の上からまわりを見渡すと、たくさんの人がポカーンとこちらを眺めていた。
そう言えば鉄柱を登って屋根に飛び移る時に、「ジャッキー、ジャッキー」って言っている声が聞こえてきた気がする。
たぶん香港映画好きなアラブ人が、オラを見てジャッキー・チェンを連想したに違いない。
オラは下にいる人達との気まずい空気を感じた。
どうしたらいいのか分からなかったオラは思わず酔拳のポーズでその場の空気をなんとかしようとした。
1日目・日本大使館(レターを申請)→エジプト大使館(延長ビザの申請が必要)
2日目・日本大使館(レターを受け取る)→シリア大使館(ビザを申請)
2日目・待機
4日目・シリア大使館(ビザを受け取る)
注意:シリア大使館にパスポートを預けている期間は宿などでパスポートを提示された場合などに困るので、パスポートのコピーを取っておくこと。
※シリアにおいては、シリア軍・治安当局等と反政府武装勢力の衝突等の激化による治安悪化を踏まえ、2011年4月26日付でシリア全土に対して危険情報「レベル4:退避してください。渡航は止めてください。(退避勧告)」を発出しており、いかなる目的であれ、シリアへの渡航・滞在は見合わせるよう勧告しています。