粋な男サリーの巻
シェムリアップ滞在2日目の朝、あけちゃんは、サリーのバイクで病院へ。
そして僕らはサリーの仲間のバイクでアンコールワットへ……。
遺跡を見た後のお昼休憩中に一度町に戻る事になった。
バイタクの兄ちゃん達は、すこし用事があるので1時間程休憩しておいてくれと言い、オールドマーケットの前の芝生の広場で僕らは降ろされた。
その間、オールドマーケットをぶらつくことにした。
マーケットの中には「東南アジア最大の湖」トンレサップ湖で取れた活きのいい魚を売っている生鮮食料品店そして、豚の頭やこおろぎのから揚げなどを売っている不気味な食品店、カンボジアならではの雑貨店や衣料品店など多くの店が連なっていた。
約束の時間が近づいてきたので僕らは芝生の広場でバイタクの兄ちゃんらを待つ事にした。
なかなか来ないのでオラとようちゃんが芝生の上で逆立ちをしたりしながら遊んでいると、どこからともなく地元の子ども達が集まってきた。
僕らはいつの間にか、その子ども達と戯れて遊んでいた。
オラとようちゃんが背中合わせになり、二人の大人対、地元の子ども達5~6人との格闘ごっこが始まった。
ようちゃんは、元空手部なので、空手の構えで子ども達と戦う。
オラは元体操部なので側転やバク転などしながら子ども達の蹴りをひらりと交わしていった。
いつの間にやら、どんどん子ども達が集まってきて、結局10名くらいの子ども達を相手に格闘していた。
僕らふたりはフラフラになり、疲れて休んでいると、そのうち子どもら同士でも格闘ごっこが始まった。
一番ちいさい子どもが餌食になり、パンツをずらされ、芝生に植えられた小さな木の枝に向かってほり投げられた。
オラは、弱いもの虐めをしたことに腹が立ち、木に引っかかったパンツをその子に返してあげ、逆に虐めていた大きな男の子のパンツをずらしてやった。まぁ、オラも弱い者虐めをしているのに代わりはないのだが……。
でもどの国の子ども達もやることや考えることは同じなんだなぁと思った。
しかし日本の子ども達とは明らかに違うところがあった。
僕らが一緒に遊んでいた子ども達の中には、病気で片目のない子どもや、地雷で片足を失っている子どももいた。
そんな子ども達もたくましく一緒になって遊んでいる。
カンボジア国内には、内戦の影響でたくさんの地雷と不発弾が埋まっており、それらの場所に危険標識があるものの、カンボジアの多くの子供達は、貧困なために学校に通うことができず、母国語であるクメール語の文字が読めないために誤って危険地帯に入ってしまう。
その結果この国には地雷で片足を無くした子ども達がたくさんいるのだ。
自分の国の言葉すらも読めない程貧困な国で、教育制度も行き届いてないことをオラは悲しく思った。
でもこの子達は、松葉杖をつきながらでも他の子どもに負けないくらい一生懸命走って追っかけてくる。
オラはそんな子ども達と一緒に遊ぶことで、カンボジアの子ども達の力強さを感じた。
そのうちバイタク兄ちゃんらが帰ってきた。
「この後、どこに行きたいですか?」と聞いてきたので、みんなと相談し、夕陽が見える丘に行きたいと伝えた。
「まだ時間があるので、湖に行きましょう♪」とバイタク仲間の中でも一番年下のソフィアがオラに話しかけてきた。
「湖には何があるの?」
湖にはワニや現地の魚も見られるよとソフィアが言っていたが、観光用の船に乗らないといけないらしい。
僕らは余計なお金がかかるのが嫌だったので断ろうとしたが、ソフィアは船に乗らなくても湖は見られるし行こうと言ってきた。
「うん、それなら別にいいよ」とオラは答えた。
そこから30分くらい走り、ようやく湖に到着した。
しかしわざわざ観光するような綺麗な景色ではなかった。しかも着いたところは船着場であり、船に乗らないと観光すらできないところであった。
僕らは船には乗らないからアンコールワットに戻って夕陽の見える丘に戻ろうとバイタク兄ちゃんらに言った。
しかし湖に来てしまったせいで時間が無くなり、一番行きたかった夕陽の見える丘には行けなくなってしまった。
しかもバイタク仲間同士でも何やら揉め始めた。
どうやら僕らが船に乗るなら船会社からバイタク仲間へ紹介手数料が入ってくる予定だったらしい。
ところが、僕らが船に乗らなかったので、なぜ高いガソリン代を払ってこんな遠くまで来たのだと、ソフィアは他の仲間に攻められてしまった。
結局全員のコミュニケーションのズレから起こったトラブルだった。
みんなが揉めているところに、あけちゃんを病院から宿に送り終えたサリーが戻って来た。
サリーはトラブルの原因をオラやバイタク仲間から丁寧に聞き、バイタク仲間をなだめた。
またオラには、今日行けなかった夕陽の見える丘は明日行くことにしてもいいかと相談してきた。
そしてサリーは、カンボジア鍋をバイタク仲間と僕らみんなで食べに行こうと提案した。サリーの提案にみんなも大賛成で、場の雰囲気が一気に和んだ。
オラがコミュニケーションを取れてなかった事でションボリしていると、後からサリーが「イザポンさん怒ってないですか?」と尋ねてきた。
サリーは、オラの表情の変化を察し、声をかけてくれたのだった。
夜になってから、ちょっと回復したあけちゃんも連れて、サリーお勧めのカンボジア鍋を食べに行った。
お鍋は、お肉が豊富で出汁にコクがあってうまいし大満足!
バイタク仲間の中では、一番お調子者のバランが、オレはビールの一気飲みが得意なんだと言い出し、缶ビールを何本も一気飲みしだした。
お前この後バイクを運転するんちゃうんか!?
と思わず突っこみたくなったが、結局バランは、酔いつぶれて倒れてしまった。
バランのバイクは仲間が代わって運転し、バランはトゥクトゥクに詰め込まれ帰ることとなった。
かなり飲み食いしたのに、全部で5000円くらい。
超安い! 総勢13名での鍋パーティーはおおいに盛り上がった。
帰りもサリー達のバイクで大暴走!
ほろ酔い気分で夜風を切るのは超最高!
昼間あんなに揉めていたのに、サリーが鍋に誘ってくれたお陰で、バイタク仲間と世界一周仲間は超仲良しになっていた。
ようちゃんからから聞いた話、「バイタク仲間はみんなサリーのことが大好きなんだって……」
オラから見たサリーは、人の気持ちを大事にする優しくて心の広いやつ。
だから仲間にも信用されているんだなぁ、と感心したのであった。
シェムリアップ滞在3日目、あけちゃんも完全復活したので、昨日行ったメインの遺跡と本日予定にしていた遺跡を一気にまわった。
バイタク仲間達と僕らは、遺跡の中で鬼ごっこをしたり、休憩所のハンモックで菊ちゃんをグルグル巻きにして遊んだり、お調子者のバランが携帯で音楽を鳴らしてその場の雰囲気を盛り上げてくれたりしながら観光を楽しんだ。
オラは、バイタク仲間がお客さんと仲良くなって観光する、という自分達の仕事のスタイルを作ってきたのは、リーダーであるサリーだと思った。
だからバイタク仲間もサリーと一緒に仕事をするのが好きなんだろうなぁ、と見ていて微笑ましく思えた。
アンコールワット観光の最後は、前日行けなかった丘の上からの夕日をみんなで堪能した。
赤く染まった遺跡とジャングルの景色は野生的で、しかも神秘的、僕らの更なる冒険心を沸き立たせてくれた。
そしてみんなで記念撮影をした。写真を撮る時もみんなふざけあって楽しかった。
バイタク仲間達とは、3日間一緒に過ごしているうちに昔から遊んでいる、友達のような関係になっていた。
おかげで時間が経つのもあっと言う間に感じたのであった。
シェムリアップ滞在4日目の朝、いよいよサリー達とお別れの日がやってきた。
僕らはこの後、タイに向かう予定だ。
しかし行く手をはばまれた。
カンボジアからタイへの国境越えには、本来バスを使う予定だった。ところが僕らがカンボジアに来る前に、大雨が降ったようで、国境に向かう道が水没していてバスは全く運行していないようだ。
しかし僕らは仲間との合流を果たすため、どうしてもタイに向かわなければならなかった。
どうしよう……。
僕らが悩んでいる様子を見て、サリーが普通車ならなんとか移動できるかもしれないと考え、宿のスタッフに頼んで2台の車を用意してくれた。
そんなサリーは、最後まで格好良かった。彼らは髪型をビシッときめて僕らをお見送りに来てくれていたのだ。
そして「仲間のしるし」と言って僕ら全員にブレスレットをプレゼントしてくれた。
粋な事をしやがる奴らだなぁ……。
僕らもお礼に身に着けている物を一つずつ手渡した。
長いようで短かったカンボジア。
サリー達との出会いはほんとに貴重だった。
そしてサリーとオラは「また絶対会おう!!」と言って、あつく握手を交わした。
オラは、異国の地で、サリーのような尊敬できる男と友達になれたことを誇りに思った。
アコちゃんがオッキーの事を思っている事はオッキー本人以外は皆分っていると思う。
バイクタクシーの後ろにオッキーとアコちゃんがふたり一緒に乗った時。
あけちゃんが、アコちゃんだけに聞えるように、「ヒューヒュー」と言ってくる。
そんな言葉もアコちゃんにとっては虚しく感じるだけで辛かったのだった。
禁煙のはずの遺跡の前でタバコを吹かす悪僧侶、そしてポイ捨て。
酒好きの僕らは、毎晩のようにサンセットバーで酒を飲んだ。
夜遅くまで飲み続け、バンガローの横のブランコで、オラとオッキーは酔いを醒ますつもりでブラブラしていた。
ちょっと酔ったせいもあって、二人のブランコをこぐスピードも自然に増してくる。
二人のブランコをこぐタイミングが合ったその瞬間、勢い余って、ブランコの器具自体が横転した。
ぶらーん、ぶらーん、ぶらーん、ぶらーん
「うお~」
ガシャーン!
夜中に大きな音が聞こえたので、宿で働いている現地の女の子達が飛び起きてきた!
オラとオッキーは、ひっくり返ったままだったので、その子達は手を貸してくれた。
オラとオッキーはお互いの顔を見合わせて、大爆笑した。
現地の女の子達も僕らを見て大笑いした。
しかしオラの後頭部にはぽっこりタンコブができてしまった。
名誉の負傷!…… では無いか!?