すべてのものを合わせると5万キロを超えると言われ、地球を一周するよりも長いまさに人類史上最大の建造物である。
八達嶺長城は、北京から最も近く有名かつ一般的な観光地。
現地では長城高部と連絡するロープウェイも2路線設置されている他、下りのみの小型トロッコのようなカートも敷設されている。
しかし元気がある方は是非この急勾配の階段をお勧めする。その際はしっかりとしたスニーカーと汗拭きタオルが必需品である。
大混雑の万里の頂上の巻
翌朝6時、『丘阳大厦』ホテルを出発し、前門バスターミナルから出発する万里の長城行きのバスを探した。
船で知り合った中国人のおばさんからの情報によると、前門から万里の長城(八達嶺長城)までは遊1路のバスに乗って、約2時間、片道50元で行けると聞いていた。
しかし前門バスターミナルは思った以上に広く、どこからバスが出ているのかよく分からなかった。バスターミナルで掃除をしている若い男の人に尋ねてみたがよく分からない様子でおどおどしていた。
そんな最中、中国人のおばちゃんが横から割って入ってきた。どうやらツアーを斡旋するおばちゃんのようである。
でも僕らは相場が解らないので、ボッタクリの可能性があると思い警戒した。むやみに勧誘してくる外人は皆怪しいと思ってしまう。
「あなた達、八達嶺長城まで行くあるか? 私とこのツアーは220元で行くあるよ!」 おばちゃんは真剣な顔で言い寄ってきた。
「高いなぁ、不要(ブヨウ)だな、いらないなぁ!」
僕らも真剣な顔で手の裏を振った。
ツアーのおばちゃんは意外にあっさり引き下がった。
もう一度バスターミナルの掃除の人に尋ねてみると、今度は南の方を指差し、向こうじゃないかと言っている。
とりあえず南のバスターミナルまで歩いて行くと、またまたさっきとは違う二人の中国人女性が話しかけてきた。
「あなた達、八達嶺長城まで行くあるか?
私のとこのツアーは200元で行くあるよ! 八達嶺長城以外にも観光地を3箇所周るあるよ」
一人の女性がニコニコしながら名刺を差し出した。たしかに名刺の裏には遊1路と書いてある。
「とりあえず付いて行く事にしようぜ!」 オラはみんなの意思を確かめるように言った。
「この人達怪しいかもよ!? へんな場所に連れて行かれるかもよ!?」 英語の得意なあけちゃんが不安そうに言った。
「でもとりあえずバス乗り場だけでも確かめてみようや! もし怪しければ戻ればいいんじゃけん!」熱い男オッキーが言った。
というわけで、怪しい中国人女性について行き、そこから300mくらい離れたバス乗り場に着いた。
そこにはちゃんと遊1路と書かれた大型バスが停まっていた。
そして値引き交渉を試みた。僕らは万里の長城以外の観光には全く興味が無いことを伝えた。「万里の長城が見たいだけやねん! 他のは要らんから負けてよ!」
しかし、中国人女性はこの4箇所周るツアーしか無いと言う。
ほんとなら250元のところを200元に下げていると言うのだ。もうこれ以上は下げられないと言っている。
すると、横からまたまた変な親父が割り込んできて自分のところのツアーを主張してきた。
「俺のツアーならランチ付で180元(約2700円)だぜ!」親父はずる賢そうな表情で言った。
「うーん、今から別のバスを探しまわるのも面倒だし、これに決めちゃおか?」
「賛成!」
という訳で、横から割り込んできた180元の親父のツアーに決定することにした。
中国人女性は、親父に向かって「私が連れてきたお客に何するのよ!!」とでも言っているのか、しきりに文句を口走っていたが、僕らが親父からチケットを買うと決めたとたん、彼女はすねた表情でどこかへ消えて行った。
少し悪いなぁと思ったが、僕らは仲間全員の会計を管理して旅をしているので旅にかかる費用は少しでも節約しないといけないと思っている。
なので自分一人の情で判断するのはいけない気がした。
「とにかくバスに乗り込もう!」 僕らは一番後ろの席を陣取って万里の長城までの、約2時間の道のりを楽しんだ。僕ら以外は全員中国人で、中でバスガイドのお姉さんからチケットを買う人もいた。
「ちょっと、見てみて?」あけちゃんが不思議そうな顔で言ってきた。
「このチケット150元って書いてあるよ!」
「ほんまやなぁ!」みんなも不思議そうにチケットを眺めていた。
「ねぇねぇ、お姉さん、私達180元払ってるの。でもこのチケットには150元って書いてるんだけど……。」
「今は連休だから割り増し料金になってるのよ」 ガイドのお姉さんは、自信満々に答えた。
「そっかぁ、そうだよねぇ」
「なぁ、なぁ、でも現地の人が幾ら払ってるか一応見てみいひん? 現地人が180元払ってるの見たら安心やしな!」そう言うと熱い男オッキーが双眼鏡を出してきた。
「チャラララッチャラーン オペラグラス!!」
「よおーし、これで本当の金額が分かるぞ!」みんなも、現地人のチケット代金を支払う様子を、身を乗り出して直視した……。
なんと、現地人が払っていたのは150元であった……。
ガーン、騙された!
「まぁ、30元だったら、500円くらいだしそれくらいはボッタクリの内に入らんよ」
「そうだね……」僕らは騙された自分達のことを慰め合った。
バスの車窓からの景色は街並みからどんどん山の風景へと変わって行った。
お城の門のような場所をくぐり、たくさんのバスが停まっている駐車場に着いた。
万里の長城の下の駐車場はかなりの人で溢れていた。ドラの鐘の音と共に、花車が辺りを行進している。歴史ある衣装に身をまとった女の人や子ども達が、観光客を魅了している。
バスガイドさんが1時間40分後に集合だと言っていたので、急いで万里の長城の入り口まで行き、長い長い階段をひたすら歩いて上った。
途中ありえないくらいの急勾配を上って行くことになる。
その急勾配にもたくさんの観光客の列がわらわらと続いていた。もし、この人数の誰かひとりでも足を踏み外したら間違いなく、大量の人間が死に至ることになるだろう。そう思うとゾッとした。
一時間位のトレッキングの末、とうとう万里の長城の一番の絶景地に到着した。
おおっ、すげぇ感動。
山の尾根に沿って、遠くの方までぐるりと伸びている城壁の道。それは、まるで天に登る竜のようであった。
頑張ってのぼってきた苦労もあり、頂上に着いた時の感動はよりいっそう大きかった。頂上で写真を撮ったりしている間に時間が無くなってきたので急いで駐車場に戻ることにした。
急勾配は下りの方が本気で怖かった。
途中人数を数えると5人しかいない、あとの4人はまだ上のようだ。たぶん、高所恐怖症の菊ちゃんがなかなか下りてこられないのだろう。しかし集合時間はあと10分ほどしかない!
「オレら、先に集合場所に戻っておきましょうか?」九州男児のようちゃんが心配そうに言ってきた。
「そうやなぁ、じゃぁみんなが下りて来るまでオラはここで待ってるわ!」オラはその場に腰をすえた。
「じゃぁ、いつもの秘密道具を……。」ようちゃんは、サブバックからトランシーバーを取り出した。そして彼らは、集合場所の駐車場まで下りて行った。しばらくしてようちゃんから連絡が入った。
「どうやら他のみんなの方が先に戻ってたみたいです、どうぞ?」
え~、どこで抜かされたんやろ???後で聞いた話、帰りは別ルートが有ったようだ。
「そっか、急いで下りますどうぞ」オラはダッシュで階段を走り下りた。たぶん階段を3段抜かし、いや4段か5段抜かしくらいしていたと思う。
頑張った甲斐あってなんとか集合時間には……。
間に合わなかった。
でも仲間がバスを止めてくれていたおかげで無事車内に乗り込むことができた。
しかしせっかちな中国人観光客達の視線は痛かった……。
そして次の観光地まで引き続きバスで移動した。現地で取れるキレイな石を展示している観光場所のようだ……。
入り口に入ってすぐの部屋ではなにやらマイクで石の説明をしだしている。
その部屋ではいくつかの石の展示物を順番通りに見てまわる仕組みになっている。そして次の部屋に繋がっているのであった。
部屋に入ってオラは愕然とした。さっきの展示場よりかなり広いスペースの部屋にはレジがずらりと並び、たくさんのショーウィンドウに値札の貼った石の飾り物がずらり並んでいて、多くの店員さんが観光客を待ち受けていた。
「なんじゃ~お土産メインかよ!! あーあ、つまんないなぁ……」
そして3件目の観光地はへんな寺のようだった。ここでも結局はお土産メインであった。
次の観光地は何とか鳥と書いていた。
「たぶん北京ダックのお土産屋やで」アコちゃんが言った。
そしてその観光地は……。ピンポーン! 正解!やはり北京ダックの店だった。
入ってすぐのカウンターには、北京ダックの袋詰めが山盛り積まれていた。その近くには、北京ダックの試食コーナーが……。その試食コーナー目掛けて中国人観光客達は、わらわらわらわらわらっと群がっている……。
まるでバーゲンセールの様。いやそれ以上の光景だった。
あけちゃん達も昨日たらふく北京ダックを食べているのにも関わらず、その群れに混じっていった。
わらわらわらわらわら…… ブス
「ギャァー!」
なんと、つまようじを他人の腕に刺さしている人がいるではないか!? 何人かの「アウッツ!」っと叫ぶ痛々しい声が聞こえてきた……。
もうお土産屋はこりごりだ。僕らは次の観光地は寝たふりでバスから降りない事にした。
翌日は、それぞれ朝から自由行動。オラと慎重派女のマッキーは前門バスターミナル近くのネットショップで、サイトの更新と旅の情報収集。1時間30元(約450円)。
九州男児ようちゃんは、日本で無くしたのと同型のデジカメを探しに電気屋さん回りをしていた。探し回った甲斐もあり、日本より1万円も安い値段で同じ機種のカメラをゲットできたそうだ。
他のメンバーは、前門からタクシーで15分ほどの場所にある、『紅橋市場』でショッピング。紅橋市場は、衣料・雑貨やコピー商品、家電オーディオ、外国製品、高級品の置いてある、値引きを前提とした販売店の入ったビルである。
その後、前門に戻ってその付近の観光を楽しんでいた。しかしその時事件は起こった。
前門近くの2元ショップ(日本でいう100円ショップみたいな場所)でオッキーはデジカメをスラれたようだ。
デジカメを後ろポケットに入れていたらしい……。
公安に行って被害届をもらおうとするが、英語をしゃべれる警官が今は寝ているのだと言ってなかなか対応してくれない。
結局、公安をたらいまわしにされた。公安をみんなでパトカーでまわって、3軒目でやっと被害届をもらえたみたいだ。
ポリスレポートがあれば日本で保険会社に請求できるのである。
その話を聞いたオラは、「やはり海外の警察はいい加減だし、引ったくりも多いので気を付けようなぁ」とみんなにいい聞かせた。
そして今日でこだまちんとはお別れだ。こだまちんが、帰りの空港まで移動しやすいように、みんなで前門バスターミナル付近の宿を探す事にした。
「短い間だったけど凄く楽しかったよ。みんな気を付けて旅して来てね!!」 こだまちんは目をウルウルさせながら僕らに手を振った。
僕らはこだまちんに見送られながら、北京を後にしたのであった。
東安門大街の屋台群は前門から歩いて20分、王府井大街と故宮の間にあり、道いっぱいにずらっと屋台が並んでいる。
串に刺した羊肉や牛肉、麺類や小龍包など中国独特の軽食を始め、中には、ゲテモノまでもが売っているのだ。
チャレンジャーなみんなは、色んな物に挑戦である。
セミ、蛇、ヒトデなどの唐揚をみんなそれぞれ買って食べた。
ザリガニは99%当たると聞いていたのでみんなはパスであった。
卵屋では、今にも生まれてきそうな不気味な卵が普通に売られていた。
それを食べるのかと思うとオラはぞっとした。
その横では鶏屋の主人が生きているニワトリの首を切り、その辺にほり投げている。
首の無い鶏が、今にも走り出しそうな恐ろしい光景だ。しばらく歩くと、強烈な悪臭が漂ってきた。
ふと見ると水槽の中で死んだ鯉が大量に浮かんでいた。
それを近所のおばちゃんが買って帰るのである。
オラは早々にこの場から立ち去った。
人見知りするアコちゃんは、中国までの船の中、すでに意気投合している仲間達の姿を見て、遅れを感じていた。
北京に着いてもまだみんなに溶け込めず、自分だけの世界に浸ることが多かった。
そんな寂しげなアコちゃんを気づかってかオッキーが時折話しかけていた……。
そしてアコちゃんにとって、オッキーが、この旅初めての心を開ける仲間となった。
北京滞在4日目、天安門広場をまだ観光できていないこだまちんのために自由行動中の仲間5名で一緒に行こうという話になっていた。
ところが、前門バスターミナル前の2元ショップ(日本でいう100円ショップのような場所)で、熱い男オッキーがデジカメを盗られた。
みんなは、慌てて「公安に被害届を出しに行こうよ!」とオッキーに問いかけた。
しかしオッキーは、旅の日程が少ないこだまちんの観光の方が大事だと言い出した。結局は仲間の意見で、公安に被害届を出しに行くのが優先になったが、
オッキーは、いつまでもこだまちんの観光のことを気にしていた。
アコちゃんは、自分の不幸より他人の幸せを大切にしようとするオッキーに対して、次第に心を惹かれていったのであった。
またまた16時間の寝台(軟臥)列車の旅だ。寝台での電車の旅はかなり快適。現地の人達と話す機会も多く時間が経つのもあっという間。特に車両と車両の間はいつも現地人との触れ合いの場所となる。
最近、英語の得意なあけちゃん・ぶっ飛び男の菊ちゃん・九州男児のようちゃんは、お互い意気が合い絡むことも多くなった。
そんな仲良し3人組のマイブームは、月が出た出たの振り付けを中国人に教えること! この日も20歳の若者に、消灯時間を過ぎるまで踊りを教えていた。
さすが若者はおぼえが早い。
“さ~のよいよい♪”のところの(よいよい♪)のタイミングなんかばっちりだ!
旅の仲間達はみんなすごいと思う。当然、中国語なんて話せない。
でも100円均一で買った中国語辞書とジェスチャーでコミュニケーションを取ってしまうのだ。
九州男児のようちゃんの場合は何でも道具をうまく使い、意思表示をしていく。
手先が器用なので、針金でもみじを作ったり、ネックレスも作ったりする。それで現地人の興味を引きつつ、話のキッカケにしていくのだ。
ぶっ飛び男の菊ちゃんの場合は、帽子を脱いで、「ねえねえ僕の頭見て?」てな感じで仲間にカットされたモヒカン頭を見せて笑いを取るのだ。
こんな風に現地の人達とどんどんコミュニケーションを取って行くのであった。
初めは僕らの雰囲気になかなか溶け込みにくそうな菊ちゃんであったが、今では完全に仲間に溶け込んでいる様子。
現地人とのふれあいが大好きなあけちゃん達仲良し3人組はいつも現地の誰かと絡んでいるため、常に笑顔が絶えなかった。
熱い男オッキー達も席が近い中国人の家族と中国の歴史について会話していた。
慎重派女のマッキーは中国人のお母さんが抱いている赤ちゃんに夢中。
その時すし屋の看板娘のアコちゃんは、自分の席の近くに座っていた若い中国人男性と筆談で会話の真っ最中。
おたがいに辞書を引き出しながら一生懸命会話を弾まそうとしていた。
若い中国人男性はアコちゃんを大変気に入った様で、そのうちメールアドレスの交換をしようという流れになってきた。
こちらから見ているとなんかいい雰囲気。しかし彼女は、その隣に座っている『ぺ・ヨンジュン』似の友達の方がタイプだと言っている。
しかし『ぺ・ヨンジュン』は、アコちゃんに夢中になっている友達の行動に飽きたらしく、しばらくしてどこかへ行ってしまった。残念だが、アコちゃんには興味が無さそうだ。
こんな感じでそれぞれみんなの列車の旅は、常に人との触れ合いがあるため、退屈しないで過ごせるのであった。