盗難事件の巻
タンザン鉄道の二等客室は、6人ずつのコンパートメントに別れている。
8名で旅している僕らはジャンケンで席を決めた。
ジャンケンに負けたぷる君とめぐみちゃんは、隣のデンマーク人達と一緒の部屋になっていた。
タンザン鉄道三日目……。
朝の列車移動の中、僕らはめぐみちゃんの声で目が覚めた
「私のサブバックが無い!!」
みんなは飛び起きて聞いてみた。
「サブバックには何が入ってたの?」
震えた口調で、めぐみちゃんが言う。
「現金とデジカメと、えーとパスポートと……」
みんなは大声で口を揃えた。
「え~、パスポートも!?」
みんなは、めぐみちゃんに「落ち着いてもう一度捜してみな!」と言うが、やはりいくら捜しても見つからないみたい。
寝る前、枕元にサブバックを置いて寝たのは確かのようだ。
一緒の部屋だったぷる君が言った。
「そういえば昨日夜中に一回電気がついてすぐに消えた気がする。 誰かが入って来て、荷物の場所を確認してすぐに消したのかもしれない……」
オラは夜中のことを思い出した。
「そう、昨日深夜2時頃、どこかの駅に着いた時、たくさんの人が列車に乗り込んで来たのは憶えてるよ。
誰かがドアをガチャガチャさせる音も聞こえた気がする……。
僕らの部屋はちゃんと鍵を閉めていたけど、めぐみちゃん達の部屋は鍵を閉めてなかったんやろ?」
ぷる君とめぐみちゃんは寝る前にちゃんと鍵を閉めたが、デンマーク人達はトイレに行った後など鍵を閉めてくれなかったようだ。
「そうか、解ったぞ、めぐみちゃん達のコンパートメントのドアの入り口にデンマークの国旗を飾っていただろ?だからそれが逆に目立って、狙われやすくなったんじゃないかなぁ」
とりあえずめぐみちゃんはこのことを車掌さんに話しに行った。
しかし、車掌さんは、こんな事は良くあるので今度から気をつけろと言うだけだった。
めぐみちゃんは、もうみんなと旅ができないという、事の重大さを感じ、動揺を隠し切れないでいた。
ようちゃんは、そういうめぐみちゃんの気持ちを察して、時おり元気づけてあげていた。
12時30分、列車はダルエスサラーム駅に到着した。
今後の予定としてはまず、駅から5~6キロ離れたダルエスサラームの中心地である港街に移動して、そこから船に乗り、青い海と白いさんご礁に包まれた島、ザンジバル島を目指すことになっていた。
みんなは、ザンジバル島を楽しみにしていたが、今はめぐみちゃんの事を考える方が先決であった。
僕らは駅の公安にポリスレポートを書いてもらおうとしたが、たらいまわしにされるだけでなかなか事が進まない。
じれったいので、とりあえず港街まで移動して今後の事について話し合おうと思った。
年末という事もあり、パスポートの再発行の手続きを早くしないと、めぐみちゃんは本当に動けなくなってしまう。
残念だがザンジバル島は1泊に減らし、ダルエスサラームの港町で宿を探すことにした。
幸いこの辺りは安宿も多く点在していたので、僕らは『ポップイン』一人一泊3000シリング(約294円)の宿に泊まることができた。
公安には、オッキーやアコちゃんの盗難事件の際に、よく関わったようちゃんがめぐみちゃんについていく事になった。
オラとマッキーとあけちゃんは翌日のザンジバル島への船の予約をしに行き、他の4人は部屋で待機してもらった。
結局めぐみちゃんは公安でポリスレポートは書いてもらったけれど、パスポートの再発行をしてもらうために日本大使館に向かおうとしたが、営業時間が終わってしまったため、明日以降に行かなければならなくなった。