チェンマイ観光の巻
翌朝、スコータイの宿を出発し、朝一のバスでチェンマイに向かった。
6時間半の移動である。チェンマイでは、ガイドブックに載っていたチエンマイ門市場の近くにある『バナナゲストハウス』に僕らは泊まった。
料金は一人80バーツ(約240円)
バナナハウスは日本人の奥さんが経営していた。
旦那さんは、タイ人で、現地のトレッキングガイドをしている。
その夫婦には10歳位の娘がいた。
とっても人懐っこくて可愛い娘だ。
僕らがフロントのテーブルで休んでいると、テーブルのまわりをウロチョロしながら時おりちょっかいを出してくる。そのうち彼女が部屋の奥からフラフープを出してきて、自分の腰をフリフリしながらフラフープさばきを披露してきた。
僕らは「凄いねぇー」と言って手を叩く。
彼女は満足げな表情で、今度は僕らにフラフープを手渡した。
その子が一生懸命フラフープを教えてくれるのだが、僕らのメンバーはドン臭いのか、誰ひとりとしてうまくできなかった。
フラフープは見た目簡単そうだが意外と難しいんだなぁ……。
スコータイに続いて、チェンマイの街でも今日はお祭りの日であった。
僕らは夜になってローイ・クラトン祭というお祭りを見に行った。
川岸では多くの人が、灯篭を流している。
川の水面には灯篭の灯りが一面に広がりとても綺麗だ。
若者達は川の対岸どうしで、ロケット花火の打ち合いをしている。
その数といったら半端ではない。
その花火が当たり火傷する人も必ず出るだろうと思った。
普通なら警察が出てきてその行為を阻止しそうな雰囲気だが、それは恒例行事のようなもので誰も止める者はいない。
宿の奥さんに「観光客に花火が当たり喧嘩が起こることがよくあるのであなた達も気をつけてね」と言われていた。
僕らは橋の上から眺めていたが僕らのところまで花火が飛んで来るので、かなり危険であった。
ふとマッキーの方を見ると、激しい目つきで花火が飛んできた方を睨みつけていた。
これはヤバイと思いその場から撤退することにした。
翌日は山岳民族の村を見学するツアーに参加した。
まずは、カレン族(首長族)の村を訪れた。
タイにいるカレン族はもともとミャンマーからの移民であり、準難民として扱われ、この村からの自由な出入りは禁止されているらしい。
彼らはお土産を売って生計を立てているそうだ。
赤ちゃんを抱いたお母さんがお土産物屋で店番をしていた。
カレン族の女性は5歳の頃から首にリングを巻かれるらしい、リングを巻かれて間もない子ども達も店番をしていた。
とても暇そうだったし、オラも退屈になってきたので、カレン族の子どもにちょっかいをかけて遊んでいた。
カレン族の子どもは、その辺に落ちていたスポンジを拾い、それをブチッとちぎってオラに見せてきた。
「何それ!?」オラは子どもが手渡してきたスポンジの一つを両手の中でモミモミした後、両手を閉じ、「どーっちだ!?」と言って、グーにした両手を子どもの前に突き出した。
子どもはどっちに入っているか当てることができず、悔しがっていた。
そのうち子どもが「今度は私にもやらせて?」と言わんばかりに手を差し出してきたので、今度はオラが、その子どもの手に入ったスポンジがどっちにあるか当てることとなった。
しかし、子どもの小さな手の指の隙間から微かにスポンジが見えていた。
オラは、ウシシッと思い、ことごとくそれを当てていった。
子どもは不思議そうにしていたが、やはりどこの国の子どもも一緒で、遊びだしたら夢中になる。
オラも気づいたら夢中になって遊んでいた。
「そろそろ行くでー!!」マッキーが呼びにきた。
子どもとのやり取りを見たマッキーは、「あんた、子どもに本気ださんとたまには外したり-な!」と言ってきたので、オラは、はっと我に返った。
ちっちゃい子ども相手に意地悪心が働くオラは大人気ないなぁと思ってしまった。
そのあと僕らは、耳たぶの長い耳長族、鮮やかな民族衣装が特徴的な、リス族などの村も案内してもらった。
リス族の村ではちょうどお昼ご飯の時間だった。
わらぶき屋根の村の集会所の様なところに村の女の人たちが食事の準備をしていた。
僕らも味見をさせてもらう事に……。
たらいの中に入った練り物の様な物を何かの葉っぱですくって一緒に食べるのである。
オラはパクッと一口食べてみた。
「%#$%#$*……激辛!!」舌がちぎれそうに痛い。
ここの人達はこんな辛い物をよく平気で食べられるなぁ。
今回のツアーに参加して思ったことは、部族が違うだけでこんなにも、見た目や生活習慣まで違うんだなぁ。
それにタイに色んな種族の村が観光のために設けられているのが、オラには不思議な感覚であった。
しかし、オッキーはアコちゃんの本当の気持ちは未だ分からず……。
アコちゃんも自分の核心の気持ちは悟られないように必死でいた。
カレン族のツアーに参加した時の出来事。
オッキーは日本にいる自分の彼女にカレン族のブレスレットを買おうとしていた。
アコちゃんの腕をぐっと引き寄せ、ブレスレットのサイズを合わせてきた。
「うん、彼女の腕もこんな感じかな!?」
オッキーは満足そうにブレスレットを買っていた。
しかしアコちゃんにとっては、とてもショックな出来事であった。
好きな男の人に自分の腕を彼女の腕の代わりとして使われるのは、とても辛いものがある。
でも、アコちゃんの気持ちを知らないオッキーは何も悪く無いのだ。
切なさを隠しきれないでいたアコちゃんは、誰にも声をかけられないようにトボトボとみんなの後ろをついてまわるだけであった。
スコータイの夕日をバックに集合写真 それぞれ、みんなと離れる時に寄せ書きをする事にした……。
アコちゃんはオッキーに彼女がいるならあきらめようと思ったものの、好きになったものはどうしようも無いという気持ちの方が大きくなっていた。
チェンマイからバンコクまで戻る途中の長距離バスで、アコちゃんは、この気持ちをどうにかしたいと思い、オッキーの、日本にいる彼女に対しての気持ちが聞きたくなった。
オッキーは彼女に対して強い思いを寄せているのは分かる。
しかし、ハッキリした形で自分が理解しないとこのモヤモヤは収まらないと思ったからだ。
アコちゃんは、別に話したくも無い、自分の過去の恋愛話を引き出し、自分が本題にしたいと思っているオッキーの恋愛話に発展させようと思った。
アコちゃんが自分の過去の恋愛を全て話し終わったところで、オッキーも自分の事を話さざるを得なくなってきた。
アコちゃんは、日本の彼女に対して、オッキーの核心の気持ちに迫ってみた。
オッキーは答えた。
「わし、彼女と将来結婚しようと思っているけん!!」
アコちゃんは、オッキーの彼女に対する充分過ぎる思いを聞くことができた。
これだけの思いを聞けたらスッキリ諦めがつくであろう……。
しかし、アコちゃんにとってはショックが大き過ぎた。
その場に居るのが辛過ぎて、早くバスから出て行きたい気持ちになってきた。
バンコクに到着したものの、オッキーとこれ以上一緒に居るのが辛くて辛くてしょうがなかった。
バンコクの宿の女部屋でアコちゃんは意を決して、マッキーに話してみた。
「私、もう旅を続けられへんわ!バンコクから日本に帰る事にする!!」
マッキーは、一瞬驚いた表情を見せたが、一呼吸をいれた後、落ち着いた口調でアコちゃんに話をした。
「アコちゃんは、なんのためにこの旅に参加したん!? 最終のインドには絶対行きたいって、散々言ってたやん!!」
アコちゃんは、マッキーの言葉に返す言葉も無くその場でうずくまってしまった……。
しかし色々悩んだが、結局マッキーの言葉で自分の目標は最後まで続けようと決心したのであった。
さよなら菊チャンの巻
チェンマイ観光を終えた僕らは、翌日再びバンコクに戻り、2日後は飛行機でインドに飛び立つ事に。
それは菊ちゃんとの別れの時でもあった。
もともと彼は2年間の一人旅を決め、日本を旅立った。
中国行きの船の中で、僕らと知り合い、ひょんなきっかけから少しの間一緒に旅をする事になった。
中国(成都)の宿でみんなで酒を飲み交わした夜のこと……。
「菊ちゃんはこのあとどうするの?」ようちゃんが尋ねた。
「う~ん、みんなの旅は半年だけど僕の旅は2年なんだよねぇ、いつみんなと離れるか、常に考えてるよ~」
「菊ちゃんと離れるの嫌だ!」あけちゃんが泣きながらこう言った。
みんなもつられて泣いてしまった。いつか菊ちゃんとの別れが来る、そんな思いがみんなにもあった。
初めの頃は、仲間での旅に戸惑いがあった菊ちゃん。
しかし、すぐにみんなと仲良くなり、仲間との旅にハマってしまった。
気づいた時には、離れられなくなるぐらい仲良くなっていた。
身を切り裂くような思いで、彼はひとりタイに残り、みんなと別れることを決意した。
「俺、別れの時は絶対泣かないよ」そんなようちゃんの言葉からか、みんなもいつもと変わらぬ様子で空港へ向かった。
別れの直前、あけちゃんの提案で寄せ書き帳を菊ちゃんにプレゼントした。菊ちゃんは、それを読んで寂しさがこみ上げてきたのか、堰を切ったように泣きじゃくり始めた。
どんなに小さな悩みでも真剣に聞いてくれる菊ちゃん。いつも笑いの絶えない菊ちゃん。オラも菊ちゃんとの思い出がよみがえり、思わず泣いてしまった。
みんなも泣いていた。
……。あけちゃん・菊ちゃん、この旅で一番、ふたりの気持ちが近かった!
別れの日が近づくにつれ、お互いへの思いはどんどん膨らんでいった。しかし、今日でお別れ。
搭乗口に入る時、自然とみんなはふたりの時間を作ろうとした。名残り惜しさが募る中、何も話さないまま、ただ見つめ合うだけのふたり。
残酷にもフライト時間のサインが点灯。
あけちゃんはうつむいたまま僕らの方に歩き出した。
さよなら菊チャン
また会う日まで……。
いざぽん・菊ちゃん
あけちゃん・菊ちゃん