過酷な電車移動の巻
アーグラーでの観光を終えた僕らは、ニューデリー経由でバラナシに行くため、アーグラーカント駅に向かった。
しかし13時出発予定のニューデリー行きの列車はなかなか来ない。
待てど暮らせど列車は来ない。
結局ニューデリーからバラナシ行きの乗り継ぎの電車の時間に間に合わなくなってしまった。
仕方が無いので僕らは、アーグラーカント駅の窓口に行った。
まず使えなくなったチケットの払い戻しと再度バラナシ行きの列車のチケットを買い直そうとするが、英語がうまく伝わらないため苦戦する。
駅の中をたらいまわしされるだけで、なかなか事が進まない。
長時間待たされたので、さすがのみんなも半分あきらめ状態でぐったりしていた。
結局トータル8時間、駅で苦戦するが、窓口の時間が終わってしまったので明日改めて隣の違う駅(アーグラーフォート駅)から切符を購入することに決め、諦めてサイパレスホテルにとんぼ返りすることにした。
サイパレスホテルに着いたのは21時半であった。
翌日の早朝、僕らは早めに起きて身支度を始めた。
一日の遅れを取ってしまったからだ。
今日は絶対バラナシ行きのチケットを取らなければならない。
朝7時半にチェックアウトをし、僕らは宿の受付で、アーグラーフォート駅までのオートリクシャーを頼もうとした。
すると受付の兄ちゃんが旅行会社に頼んで電車のチケットを取ってくれると言ってきた。
多少マージンを取られても今までの苦労を考えたら旅行会社で取ってもらったほうが絶対いいと僕らは判断した。
旅行会社では、アーグラーからバラナシ行きの直通チケットは取ることが出来ないが、途中のグワリエル駅からバラナシ間の鉄道チケットなら取れるとのこと。
アーグラーフォート駅からグワリエル駅間は、2時間くらいの距離で比較的本数も多くチケットが取りやすいらしい。
僕らは、グワリエル駅までのチケットは、僕ら自身で購入する事にし、グワリエル駅からバラナシ間の鉄道チケットを旅行会社に手配してもらった。
グワリエル15時半出発で、バラナシには、翌朝7時半到着予定の列車である。
そうと決まれば急いで駅まで行こう。
アーグラーフォートに着いた時には電車が出発するまであと5分しかなかった。
急いでチケットを買わなければ。
あけちゃんとオッキーがふたりでチケットを買ってきてくれた。
ぷる君がそのチケットを手にしたとたん一瞬固まった表情になった。
「なんで2等のチケットなんて買ったの! 基本的に旅行者は2等なんて乗れないって!」ぷる君がいきなり強い口調で怒鳴った。
「そーなの? でも仕方ないよー、2等しか無いって言われたし、時間も無かったし!」あけちゃんは口を尖らせて言った。
「そうか、ごめん」ぷる君は困った顔で怒ったことを謝った。
電車はこういう時に限って遅れずに時間通りにきっちりやってきた。
さぁ、乗り込むぞ。
2等車両、2等車両……。
げー、なんじゃこりゃ~。なんと2等車両は超満員。インド人達は開いたドアの外まで体をはみ出しながら電車に乗り込んでいる。
「無理ー!」バックパックを背負った僕ら8人がこんな車両に乗れるわけネェ。
「ほら、言った通りだ! 仕方ない、寝台車輌に乗り込んじゃえ!」ぷる君が叫んだ!!
「みんな走れー!」
ダッ、ダッ、ダッ! ――はぁはぁはぁ……。
よかった。何とか全員乗り込めたぞ。
車両と車両の間のデッキ部分に何とかバックパックと僕らの立つスペースを確保した。
僕らの他にもインド人達が大きな荷物を持ってこの空間にすし詰め状態で乗っていた。
しかもトイレの臭いが「ぷ~ん」と臭ってきて超くさい。汚い床に寝転がっているインド人もいる。
「この人達も僕らと同じ2等車に乗れなかった人達かなぁ。」
「違うよ、多分みんな無銭乗車だよ」ぷる君が言った。
「そ、そうか……」
しばらくすると車掌さんらしき人が僕らの方に近づいて来て、チケットの確認をしてきた。
「おいお前ら、ここは寝台車輌だぞ! 2等車に移れ!」
「僕らは2等車に乗れなかったからココに来たんだよ」
「じゃぁ、寝台車輌の追加料金を払いなさい!」車掌は声を大きくして言ってきた。
「やだ、何でこんなすし詰め状態の中にいるのに寝台料金を払わないといけないとぉ!?」あけちゃんが負けじとすぐに言い返した。
車掌はひるんだように見えたが、少し考えた後、僕らの重なりあった荷物を指差して、今度はバゲッジ(荷物)料を払えと言いだした。
「いくら払えばいいのよ!」
「三千ルピーだ!!」
「さ、三千ルピー?」みんなは顔を見合わせて叫んだ。
「没(メイ)有(ヨー)メイヨー(無いよ)!」中国語がいまだ抜け切れてない僕ら。
「そんな大金持ってるわけないやろ! そんな金あったらインドで豪遊できるわ!」
しばらく揉めた後、車掌らしき人は用事を思い出したか諦めたのか違う車両の方へ急に去っていった。
「チッ! ありゃぁ、絶対おやじがポッケないないする気やったはずやで! だってここにおるインド人達にゃぁ何もゆわんかったもん」オッキーが舌打ちしながら言った。
そして僕らを乗せた列車は無事にグワリエル駅に到着した。
出発時間まで待合室で列車を待つことにした。
ここからは、チケットを先にゲットできているので安心だ。
そして、2時間遅れでバラナシ行きの列車はやってきた。
列車に乗り込んで僕らは気づいた。
なんと8枚のチケットのうち3人分は席が決まっているのに、あとの5人分は席の確保ができていなかったようだ。
どうしよう……。
インドの列車ではチケットを購入しても席の確保を改めてし直さないといけなかったのであった。
16時間も席が無いのはさすがに辛すぎる、なんとかしないといけない。
その時ちょうど車掌さんが通ったので聞いてみることにした。
「僕ら、席の予約がきちんとできていないんだけど、どうしたらいいの?」
「次の駅で駅長に頼んで空いている席を確保してもらいなさい」
「どれくらい駅に止まるの?」
「15分だ!」車掌は淡々と答えた。
「それはちょっと危険だな~」ぷる君は伸びてきた髭を上下に擦りながら言った。
オラも少し考えた。
はたして僕らが、知らない駅ですんなり駅長室を探せて、席を確保してもらうところまでできるのだろうか?
「う~ん――。あきらめよう」
しばらくすると、さっきとは違う小奇麗な格好をした、いかにも偉いサンと思われる車掌さんが来たので、何とかならないか頼んでみることにした。
すると何と、その偉いサンは座席表を取り出して、スラスラと僕らの席を決めてくれた。
「やったぁ!」みんなは、驚いた後、喜びの表情を浮かべた。
たまたま通りがかった偉いサンの背後には後光が射しているかの様に見えた。
ありがとう……。
僕らは嬉しさのあまり目じりに涙を浮かべた。
オラは安心して自分の席に着き、三段目の寝台ベッドに横になってくつろぎはじめた。
すると5つぐらい離れた席から、またまたぷる君の大きな声が聞えて来た。
オッキーの席付近でなにやら揉め事が起こっているみたいだ。
どうやらオッキーは、席を離れうろちょろしている間に、無銭乗車のインド人に自分の席を取られてしまったようだ。
特に寝台車の下段の席は餌食になりやすいと聞いていた。
オラは他人ごとながら、インドではよくあると聞くこの光景をベッドから飛び降りすかさず見に行った。
あけちゃんも向かいの席でその一部始終を見ていた。
仲間思いのぷる君が、オッキーに代わってそのインド人と、格闘している最中であった。
「ここは、俺達の席だよなぁ!?」 といかにもとぼけた仕草でインド人のおっさんふたりが見つめ合っていた。
「ショウユアチケット!?」 「じゃぁ、チケット見せてみろよ!?」 とぷる君が、強い口調で言った。
「ほにゃらほにゃら……。」 おっさん達はブーブー言いながらもふたりで会話を続けている。
「ゴーアウェイ! ゴーアウェイ!」 ぷる君が向こう行けとしきりに言う。
おっさん達は仲良く肩を並べて白い歯をキラリと見せ、愛想笑いをして見せる。
プププッゲラゲラゲラ!!……。おっさん達のおどけた仕草にあけちゃんが思わず、噴き出した。
「あと1分だけ、ほんの1分だけ、ウソ20分……。」 おっさん達はせっかくゲットした席をそんな簡単に手放すかと言わんばかりに必死に抵抗してきた。
しかしオッキーとぷる君の表情が少し柔らかくなったのを感じた。
あけちゃんの笑い声で、ふたりの緊張していた気持ちが和らいだのである。
やはりこういうトラブルも笑いに変えられるあけちゃんは凄いなぁと思った。
オラは、オッキーが駅のホームで買った盗難防止用のチェーンと、なぜかお土産でメリケンサックを買っていたのを思い出した。
「あんなぁ、あんなぁオッキー、こういう時こそ、その首に巻いているチェーンをブルンブルンと回して、あのメリケンサックを出すんや!」 オラが、冗談で言った。
「それは危ない危ない。この人らが逆に変な物出して来たらどうするんですか!?」 オッキーは苦笑いしながらも、ふたりのインド人に 「20分だけやで!」 と言い聞かせて自分の荷物整理を始めた。
長く旅を続けていると、どうしてもちょっとしたトラブルでカーッとなったり、気が滅入ってしまったりするので疲れてしまう。
でも仲間で旅していると誰かが笑いに変えてくれるので、精神的に疲れることが少なくなる。
こういう時こそ笑いというのは大切だよなぁと思った。
そしてオラは自分の席に戻り寝袋に包まった。
昼間のインドは暖かだったが、夜は急に冷え込んできた。
お腹の調子も悪いみたい。
オラは何度も何度もトイレに駆け込む事になった。
アーグラーで食べた屋台の焼きそばがダメやったんかなぁと自分の腹を抱えながら考えるのであった……。
新たなチケットの予約とキャンセルチケットの払い戻しをしようとした。
アーグラーカント駅の窓口には沢山のインド人達が並んでいる。
1時間並ぶが一向に窓口にたどり着かない。
イライラが募ったぷる君は「僕ら時間が無いから先に行かせて!」と言い、強引にインド人を抜かして先頭までたどり着いた(凄い)。
しかし、ここでは買えないと断られる。
みんなはほとんど諦め状態。ところがぷる君は、何と! 英語の得意なあけちゃんを引き連れ、窓口の中にまで入り込み、交渉している姿が見えた!!!!
結局予約の窓口が閉じてしまったため、バラナシ行きのチケットは買えなかったが
僕らが不可能だと思っていた、インドでのキャンセルチケットの返金ができた。
凄い! この人とならどこでも生きていけるとオラは思った。
着いたのが21時半、宿の門限が21時だったが夜ご飯を食べてなかった僕らは30分で帰って来ると言い、昨日行ったプルコギのレストランに夕食を食べに行った。
僕らは店のオヤジに30分以内で出来上がる料理を出してくれと言った。
この店のオヤジは、一人で切盛りしているというのに、昨日は店の中で近所のお客としゃべってばかりいたのだ。
オヤジは、ラーメンならすぐに出せると言ってきた。
「ホンマかぁ?昨日は、1時間以上料理が出てこなかったやん!
今日は頼むからすぐに出してよ!?」僕らは、インド人を半ば信用しきれないので、何回も念を押した。
「大丈夫、今は君らしかいないからすぐ出せるぜ!」オヤジは余裕綽々で言った。
僕らをテーブルのイスに座らせオヤジは厨房の奥に入って行った。
物音が聞えない、どうやらオヤジは外に出て行ったようだ。
10分経過……。親父はまだ帰ってこない
20分経過……。もう待てないと思い、僕らは席を立とうとした時、タイミングよくオヤジが戻ってきた。
なんと、オヤジの手にはインスタントラーメンが……。
どうやら市場かどっかで買ってきたようである。
おい、レストランのくせしてそれを出すのかよ!
しかし意外に美味しかったので、僕らは文句を言えなかった。
「急いで食べないと!」と言いつつ、熱いインスタントラーメンをズリズリとススルのであった。
●インド国鉄の急行列車の予約の仕方
スムーズに切符を買うには、大都市や主要駅にある外国人向けの予約センター(Booking Office)で予約を取る必要がある。
国鉄が発行する「Trains at a Glance」という時刻表を手に入れると予定が組みやすくて便利。
しかし予約窓口は非常に混雑しているので、長時間並ばなければならないことも多い。
ネットのオンライン予約も可能。
インドの列車は、9種類ぐらいの座席の種類があるが、主に寝台車と座席車に分かれている。
ほとんど予約が必要で、予約が必要のないのは二等座席車(普通車)のみ。
しかし、二等車両は超満員で、ドアの外まで人がはみ出している事が多い。
「教訓1」
●インドの列車はすぐ満員になるため、早めの予約が必要である。しかし次の移動先の予約をどんどん取ってしまうと痛い目にあう。
※インドの鉄道は定刻通りに列車が来る事が少ない。
よって乗り継ぎの時間に間に合わない事があるのでチケットを無駄にすることになる。
「教訓2」
●大きなバックパックを背負ったままで2等車両に乗り込むのは危険である。
※人が多すぎて乗れない。
※ひったくりに会う確率が高くなる。
「対策」
※乗れないと判断したら思い切って違うクラスの車両に乗っちゃおう。
※鍵付きのチェーンかパックセーフ(荷物を包み込む金網)を購入しておく。
「教訓3」
●無事、寝台車輌のチケットを予約できても、席の確保ができてない場合がある。
※無銭乗車のインド人もいるので席が空いてない場合が多い。
「対策」
※チケットに席番号が書いて無ければ、駅で席を確保してもらう。
※自分の席に無銭乗車の人がいたら丁寧に席を譲ってもらおう。
※インドの鉄道路線網はかなり複雑なので違う駅から列車に乗っても予定通りに目的地にたどり着ける場合がある。