新たなる門出の巻
アスワンからカイロに戻ってきた翌日、あけちゃんと菊ちゃんはサファリホテルを早朝に出る事となった。
辺りはまだ真っ暗な中、サファリホテル前の1.5ポンド(約33円)のピザ屋だけが、営業を始めていた……。
あけちゃんは、朝食代わりにピザを二つ買って、タクシーを止めに行った。
泣き虫あけちゃんは、みんなと別れる寂しさでシクシク泣き出していた。
ようちゃんは、寂しい雰囲気を何とかしようと、菊ちゃんに明るく言葉を振った。
「今回はもう寂しくないねぇ?」
菊ちゃんは黙って照れてる様子。
「寂しくないよって言いなよ? 僕はもう寂しくないよって!」あけちゃんが言う。
あけちゃんと菊ちゃんは、それぞれ全員に手紙を書いて渡してくれた。
オラの手紙には便箋2枚にあけちゃんからの感謝の気持ちがびっしりと書き込まれていた。
菊ちゃんからも、汚い字で不器用そうな短い文章が書かれた手紙であったが、オラには、仲間の旅やオラに対してのふたりの気持ちがしっかりと伝わり、ジーンとした。
僕らも寄せ書きTシャツにメッセージを書いてふたりに渡した。
オラは、初めて日本であけちゃんと出会った時に、彼女から聞いた言葉を思い出していた。
「私ね、半年前にオーストラリアでワーホリしていた時、世界を旅しているバックパッカーと出会ったの。
その人の話を聞くうちにどんどん興味が沸いてきて、私もいつかは世界一周をしてみたいという意欲が生まれてきた。
そして日本に帰ってからすぐに看護師の仕事を始めたんだけど、たまたま仕事の合間にネットをしていて偶然にmixiでいざぽんのコミュニティを発見!!
情報収集の一環としてコミュニティを利用させてもらおうと考えていたけど、「仲間との旅」この言葉にどんどん惹かれるようになっていった。
すばらしい景色や世界遺産を見たときに感動を分かち合う仲間がいる旅はどんなに素敵なものなんだろうと思うようになり、ワクワク感が更に急上昇したの。
とにかく計画性も計画者の人自身も私にとってはすべてが興味あるもので参加したい! と強く思ったの」
あけちゃんは、スケッチブックに日記や写真、世界のビールのラベルなどを可愛く飾った世界一周ノートまで作成していた。
それほど強く世界一周を夢見ていた彼女であったが、でも、菊ちゃんは2年の長期旅行計画者だ。
あけちゃんは、鹿児島の実家の手伝いがあるため、春には帰らないといけない。
菊ちゃんと2人で旅することで、あけちゃんは世界一周を達成できないないかもしれない。
あけちゃんはずっと悩んでいたようだけど、やはり今の気持ちを大切にしたい。
最後まで菊ちゃんと一緒に旅していたいというそんな気持ちで僕らと離れることを決断したのだと思った。
そして、みんなは、温かな目でふたりを送り出そうとしていた。
ようちゃんが「もう帰ってくるなよ!」と言って菊ちゃんの肩をポンと叩いた。
あけちゃんは、明るい雰囲気で別れたいと思い、その場で万歳三唱をしだした。みんなもそれに合わせて万歳をし、ふたりの旅立ちを祝福したのであった。
そして、みんなに見送られながらふたりは、タクシーに乗り込んだ。彼らにとって新たな旅がスタートしたのだ。
交差点を曲がるふたりの乗ったタクシーが放つウインカーの黄色い点滅が僕らの視界から消えていった。
その瞬間、その場にまだなんとなく残っていた明るい雰囲気もスーとどこかに消えていった。
カイロの街の冷え切った空気が、やけに冷たく肌に感じた。
タクシーが消えるまで見守っていたようちゃんの目には、涙が潤んでいた……。