その中で漓江川下りは桂林観光のハイライト。幻想的な水墨山水画のような世界を楽しむことができる。
一か八かの桂林ツアーの巻
九寨溝ツアーを含め、成都を6日間過ごした僕らは、次の目的地、水墨画で有名な桂林を目指し出発した。
桂林までは、34時間という長い鉄道の旅となる。成都駅を8時52分に出発する寝台列車(軟臥)に乗り込み翌日の夕方柳州駅に到着。
このあたりは亜熱帯地方に属するためか、成都に比べかなり温かく感じた。
そこから更に列車で2時間、桂林駅に向かった。
寝台列車の移動は快適であったが、柳州駅から桂林駅までは、硬座いわゆる自由席のチケットを取ってしまった。
硬座の車両は満員状態で座ることができなかったが、九州男児のようちゃんは、現地のおばさんとうまく会話が弾み、時おり席に座らせてもらっていた。
途中、他のみんなも座席に空きが取れ、全員座ることができた。
途中の駅から乗車してきた色黒の現地人のおっちゃん二人組みが、ニコニコしながら中国語で話しかけてきたので、僕らは中国語辞書を引きながら桂林について色々と訪ねてみることにした。
桂林観光のハイライトは何と言っても漓江クルーズである。
日本のガイドブックに載ってある漓江クルーズは400元と書いてあったが、色黒のおっちゃんらは、相場は250~280元だと言う。
「へぇ~そうなんや。実際は少し安いんや」 オラはガイドブックより現地の生の情報の方が役に立ちそうだと思い感心した。
色黒のおっちゃんは外国人の僕らに興味があるのか、日本の事を色々聞いてくる。
オラはフレンドリーな中国人だなぁと思った。
「ところでそろそろ席を代わってくれるかなぁ? 僕ら疲れちゃった……」
色黒の現地のおっちゃんは、急に腰をクニャッとさせ、いかにも疲れた仕草を僕らに見せた。
なんだ、そういうことだったのか……。
仕方が無いので席を譲ってあげた。
日も沈む頃、ようやく桂林駅に到着した。
僕らは今夜泊まるユースホステルに電話をし、宿までの距離とタクシー料金を確認した。駅前のタクシーは大抵、ぼったくってくるので、事前に宿に確認することに決めていたからである。
駅の周辺に停まっていたタクシーに料金を聞くと1台15元だと言う。
宿で聞いた話では値段は10元である。
まわりのタクシーに聞いても15元だと言う。
どうも口裏合わせとしか思えねぇ。
僕らはやけになって「シークワイ(10元)、シークワイ(10元)」と叫び、両手で指をバツにしながらタクシーの運転手達にアピールしてまわると、おばさんタクシードライバーが10元で行ってくれると言ってきた。
そして2台のタクシーを用意してもらい、ユースホステルに向かった……。
ユースホステルの前でタクシーを降りると、突然怪しい男性中国人が僕らに話し掛けて来た。
「ねぇねぇ、君たち桂林は初めてあるか? とうぜん桂林観光には行くあるよねぇ?
行きの送迎と漓江クルーズとガイドがついて、一人80元(1200円)でどうあるか?」
……「は、はちじゅう元?」僕らは声を揃えて言った。
「没(メイ)有(ヨー)(ないよ)!」それは無いだろ? 僕らは相場を知ってるんだぜ! 安すぎるよ! コースが短いとか、船に乗れないとか?
「大丈夫、そんなことはないあるよ、普通のメインのコースでちゃんと船にも乗れるあるし。
値段が安いのは、その日の予約が入らなかった船を俺達が安くチャーターしているからあるよ!」ほんまかなぁ、たしかに現地人価格は100元ぐらいとガイドブックに書いてあったしなぁ。
でも外国人に対しては、トラブルが多いから注意が必要って書いてあったよなぁ。
これは安易に決められないのかも……。
「みんなと相談してあとで連絡するわ」オラは怪しい男性中国人の電話番号を紙に控えた。
僕らはユースホステルに戻って受付のネェちゃんにも聞いてみることにした。
「うちが提供する桂林ツアーは240元(3600円)よ、80元なんて無いに決まっているわよ!」 ユースホステルのネェちゃんは怪しい男のツアーを否定しているようである。
そりゃそうか……。
そして、部屋では明日の桂林ツアーについてミーティングが開かれた。
「240元でも相場よりは安いんだから、あえて安すぎるツアーなんて行かない方がいいんじゃない? 後で不当な額を請求されるかも」英語の得意なあけちゃんは怪訝そうな表情をしながら言った。
「もしかしたらボートって書いてある自転車が現場に停まっているかも」慎重派女のマッキーが笑いながら言った。
「わし、安いんじゃったらチャリでもいい!」熱い男オッキーが意見を制するように言葉を発した。
オッキーはもともとインドに興味があり、
「初っ端の中国観光でお金を使ってしまう事に抵抗があるんや」と言った。
しかし、中国の微妙なお土産物には結構お金を掛けていたのでは!? と思わず突っこみたくなった……。
まぁ、みんなで参加したら怪しいツアーも面白くなるかも。
ということで、怪しい中国人の安いツアーにみんなの意見は集まった。
翌日の朝10時半。時間通りに迎えが来てくれた。
しかし来たのはオンボロの軽ワゴン車。
この車には、昨日交渉した人とは別の中国人の男の人が乗っていた。
どうやらこの男の人が、今日一日僕らに付き添ってくれるらしい。
しかし全く愛想のない男である。この男はホントに桂林に連れて行ってくれるのだろうか? あとで不当な額を請求してこないだろうか?……。
男のその無愛想さが、更に僕らの不安感を沸き立たせていたのであった。
車で山道をガタゴトと揺られながら約1時間。
綺麗な山なみと、ゆらゆらと流れる川の景色が現れた。
どうやら船乗場に到着したようである。
「これが桂林か!」みんなはキョロキョロしながら景色を見渡した。
そして僕らを乗せる船が一艇停まっていた。
しかも貸し切り。
やったぁ、嘘じゃなかったんだ。
期待してなかった分、大はしゃぎ。
みんなは急いで船に乗り込んだ。
付き添いの男も続けて船に乗り込んだ。
しかしその瞬間、ガッツンと音が聞こえてきた。
どうやら男は、船の屋根の角に頭をぶつけたようである……。
僕らは「アウチッ!!」と言って心配した表情で、男の顔を覗き込んだが、彼は頭を押さえながら動揺するように、船内をうろちょろしていた。
普通の人なら笑ってごまかしそうな場面なのに、真っ赤な顔をして恥ずかしがっている彼の姿を見て本当にシャイな男なんだなぁと思った。
アコちゃんは、そんなシャイな男を気遣ってか、彼に話しかけに行ったり、一緒に写真を撮ったりしていた
。
川の両岸には奇妙な形の山々が連なり、まさに山水画の世界であった。
その中を、僕らを乗せた船は、ゴーッというエンジン音を鳴り響かせ上流へと進んで行った。
途中牛の群れが水浴びをしている光景が見える。
流れの緩やかな場所では川藻の匂いが漂っていたが、風の流れに乗って森林の香りもしてきた。
船頭のおじさんが、仲間一人ひとりに船の操縦をさせてくれた。
そんな自由さが僕らは楽しかった。
2時間程のクルージングの末、村の船着場に到着した。
ちょうどお昼の時間である。村にはいくつか食堂があるみたいなので、僕らは、シャイな男にお勧めの食堂はないかと尋ねると、ついておいで、と言わんばかりに、手招きをしてきた。
シャイな男お勧めの食堂に入ると、まず冷えたお水が出てきた。
しかしどう見ても普通の水より茶色かった。
現地の人は普通に飲んでいるのだろうが、シャイな男が、グビっとひと口その水を飲んだ瞬間、みんながえ~飲むの!? と言う表情をしたので、男は、ビックリして「えっ、飲んじゃいけない空気なの!?」と思ったのか、それ以上その水を飲むことはなかった。
「でも料理はほんと美味しいから」と言って、色々お勧めのメニューを教えてくれた彼に、みんなは親しみを感じ、いつの間にか全員が仲良くなっていた。
食事を済ませた僕らはバスで15分移動し、陽朔の街に到着した。そこからはレンタサイクルで桂林の風景を堪能するようである。
陽朔は船着場の一つとして古くから栄えた街で、まわりには奇岩がそそりたち、中国らしい古風な建物の間にカフェやプチホテル、バーなどのお洒落な建物も点在し華やかな町並みをかもし出していた。
シャイな男は、自転車で先頭を走り、各民族の民俗をテーマにしたテーマパークやら、鍾乳洞などの各施設に入るのにお金がかかるところばかりに連れて行こうとする。
しかし僕らは、贅沢できないので断っていた。その度に彼はがっかりしていた。
たぶんツアー料金が安い分、各施設のバックマージンで彼らは生計を立てているのだろうと思った。
僕らはこのツアーの最後に楽しませてくれたお礼に、みんなで彼に一人10元ずつチップを渡すことにした。
彼は僕らのことをただのケチな観光客だと思っていたのか、アコちゃんが彼にチップを渡した瞬間、彼の表情が一遍した。
「え~、こんなんもらっていいの~ん!?」みたいな満面の笑みの表情であった。
僕らはそんな付き添いの彼も結果的には満足できて、一緒に楽しんで観光できたことを喜んだのであった。
陽朔からは、彼に見送られ、バスで2時間かけて帰ることになった。
バスにのりこんだ僕らは「今回のツアーを選んだのは大正解だったね」と今日一日の出来事を振り返り、しばらくはみんなで楽しかった出来事を色々語り合っていた。
みんなはバスの揺れがあまりにも気持ちよく感じたのか、いつのまにかオラ以外は全員眠ってしまったようだ。
オラはバスの車窓からぼんやりと外の景色を眺めていた。
桂林の街明かりの真上には三日月が浮かんでいた。
指先でチョンと突いたらパッキッと割れてしまいそうな細い月だった。
思えば旅が始まってから半月が経っていた。
中国は広い分、凄い絶景がたくさんある。また行ってみたくなる国のひとつだなぁと思った。
そして仲間での旅を振り返ってオラは思った。
今回の中国の旅では、まだお互いに気を使い、本音を言えてない部分はあった。
でも、仲間同士で協力しあい、よくまとまっていたと思う。
オラはみんなのそれぞれの強みも発見できた。
それに、オラの仲間達は思った以上に明るく前向きだ。
何だかこの仲間となら、うまく旅ができそうだと感じたのであった。
さぁ、次はベトナムだ。どんな旅になるのやら……。