アフリカで年越しの巻
今夜は大晦日、アルーシャで足止めされた僕らは、予定ではケニアで年越しだった。
もっと都会の街で年越ししたかったが仕方がない。
僕らは明るい内に宿の前の道を100メートル進んだ場所にある小さなスーパーへ買出しに行った。
アルーシャは、都会の雰囲気は全くなく、メイン道路になる砂利でできた道路沿いには、ポツリポツリと安宿や小さな食堂があり、あとは、民家の並ぶこじんまりした街であった。
今回泊まったアマゾン(一人1泊3250シリング=約319円)の宿は、僕らがアルーシャに到着したプジョーバスターミナルのすぐ裏手であった。隣には大きな競技場が建っていた。
ガイドブックによるとアルーシャの街は治安が悪いので、夜はあまりうろちょろできないらしい……。
僕らは、近くの食堂で夕食を取ったあと、一部屋に集まり大晦日の宴会を始めた。
気の合う仲間で飲む酒はいつも楽しい。
みんなの酔いがまわってくるとたいていぷる君がいじられる。
時間を気にするようちゃんが、リュックの中に手を突っ込むと、どこで仕入れてきたのか、みんなの手にクラッカーが配られた
。
「みんないくよ!」みんなのクラッカーを持つ手に気合が入る。
時計の針が12時を指した。
「せーの、明けましておめでとう!!」
パンパンパン!!
ドーンドーン!!
「ん?」
年が明けるとともにどこからともなく打ち上げ花火の音も聞こえてきた。
オラとようちゃんは、年を越した瞬間、いてもたってもいられなくなり我慢できずに宿の階段を走って下りた。
「宿の人が、夜は、出歩いたら危ないって言ってたでしょ!?」
そんな女子の声をよそに、僕らは、宿の外に飛び出した。
すると、突然どこからともなく10人くらいの黒い集団がやって来て、僕らを襲ってきた!!
オラとようちゃんは腹を思いっきり殴られ続けた……。
ゲホゲホ!!
ギブギブ、もう勘弁してけれ~。
実は近所の子供達が集まって来て、僕らを見てすぐに日本人だと分かり、空手のしぐさをしに来たのだ。
オラとようちゃんはヘトヘトになるまで現地の子ども達と空手ごっこをして遊んだ。
一汗かいたオラとようちゃんは、宿に戻って、引き続きみんなとワイワイ宴会で盛り上がっていた。
すると、僕らの部屋をノックする音が聞こえてきた。
オラは、こんな遅くに誰だろう?と思い、恐る恐るドアを開けてみると……。
そこには、赤いマントの黒人が立っていた。
うわぁ、と思いオラは、一歩うしろにたじろいだ。
なんとそこには、マサイ族の男が立っていたのだ。
マサイ族の男は、オラが片手に持っていたビールを指差し、「プリーズ」と言っている。
オラは、訳が分からず、その場に立ち尽くしていると。
ようちゃんが、慌てて間に入ってきて、おまえ、マサイのプライドあるんか!
的な言葉を英語で喋り、いきなり説教しだした。
ようちゃんの言葉を聞いたマサイ族の男は、シュンとなって宿から出て行った。
どうやら夕方僕らが買出しに行っている間に、ようちゃんは、ホテルの1階でさっきのマサイ族の男と少し喋ったのだという。
「ちょっと喋っただけで部屋まであつかましくビールをもらいに来たあいつは、ほんま、ダメマサイやわぁ!」とようちゃんは、ぶつぶつ言ってみんなの座っているベッドに座りなおした。
そしてグビッとビールを一気飲みした。
誰とでもすぐにコミュニケーションを取れるようちゃんは、ホンマ凄いなぁと、オラは関心したが、部屋の場所が誰にでも分かるのはちょっと怖いなぁとも思った。
……そして翌朝。
明けましておめでとうございます。
さぁ、テレビを付けておぞうに食べながら箱根駅伝でも見るか♪
はっ! ここはアフリカだったんだ。
テレビすら置いていないこの宿に正月らしい雰囲気はいっさいなかった。
紅白の結果が気になるところだが、前に進むことにしよう……。
僕らはバックパックを担いでバス停に向かった。
バスに乗り込んだ後、出発までしばらく時間があったので、菊ちゃんは外に一人でタバコをふかしに行った。
菊ちゃんは5分ほどして慌ててバスに帰って来た。
「やられた!!」
「どうしたん菊ちゃん!?」みんなは、一斉に菊ちゃんに視線を合わせた。
どうやら菊ちゃんはポケットから財布を盗まれたみたいだ。
しかし、日本円で200円くらいのタンザニアシリングの入った財布らしい……。
オラは、ホッと胸を撫で下ろした。
またカードとかパスポートとか盗まれたんじゃないかとドキドキしたからである。
「まぁ、それだけで済んで良かったやん。でもこれからどんどん危険な街に移動して行くんやから気をつけなあかんで!」
菊ちゃんは、みんなから口々に言われた。
そう、これから僕らが向かおうとするケニアのナイロビはヨハネスブルグについで、治安の最も悪い街だ。
身包み剥がされて全財産持って行かれてもおかしくない危険な地域なのだ。
みんなは、気を引き締めて次の土地ケニアへと向かうのであった。