仲間の旅への不安の巻
カイロ滞在2日目の夜に2人の女性メンバーとの合流を決めていた。
みかりんとゆうちゃんである。これで旅のメンバーは計11名になる。
みかりんは、エジプトから世界一周をスタートし、僕らとカナダまで共に旅した後、そこから南米・アジアをひとりで旅行する予定だ。大学時代は英語を専攻し、留学経験もあった。女性陣の中で一番年上の彼女は世話好きお姉さんタイプの女性である。
一方、ゆうちゃんは日本の旅行会社で働く海外添乗員。
小学生までカナダで生活をしていた彼女は、完璧な英語力と豊富な旅行知識の持ち主だ。
ふたりは、世界一周飲み会で気が合ったということもあり、日本からエジプトまで一緒にやって来るとのことだ。
僕らの旅に英語の得意なふたりが加わることで、これからの旅はかなり心強くなるだろうと他の仲間と話していた。
しかし、オラは正直戸惑っていた。
旅の仲間が増えることでまとまりがなくなってくるんじゃないかという、不安が頭をもたげていたのだ。
個人の揉め事ならまだしも、グループ全体に関わることは、きっちり話し合わないとグループでの旅はうまくいかないことをここまで来る間に思い知っていたからである。
たとえばこんなケースが考えられる。
宿や移動手段、食事の選択。
旅に出る前から全て決めている訳ではないので、毎回みんなに相談しながら旅を続けていかなければならない。
しかし人数が増えれば増える程、たかだか食事場所を決めるだけでも動きが鈍くなる。
最近こんなこともあった。
オラがマッキーの一時帰国や新たなメンバーとの合流を優先し、予定より旅のスケジュールを早めたことで、仲間と大喧嘩になった。
ある国の滞在日数が少なくなって、メンバーのひとりがどうしても行きたかった場所に行けなくなってしまったからである。
オラは、リーダーとして仲間が不平不満を抱かないように常に平等に物事を判断していかないといけないと思っている。
しかし、不満を持ったメンバーは、オラのさじ加減で物事が判断されると思っているのでなかなか納得してくれない。
けれどもなんとか説得して旅を進めていかなくてはグループでの旅はうまくいかない。
個性のあるメンバーの意見をひとつにまとめて旅するのは、なかなか大変なのだ。
たしかに人生に一度しかないだろうこの世界一周の旅。
こだわりも個人個人それぞれ違うし、わがままが出るのも仕方がないことだ。
これまではなんとか調和をとってやってきたが、また新たなメンバーの加わったグループをまとめて旅することを考えると正直しんどい気持ちになってきていた。
カイロ滞在2日目の夕方に僕らは、今後の旅の情報を入手し、マッキーの帰国の航空券を予約するため、昨日一度立ち寄った旅行会社『エジトラベル』を再び訪ねることにした。
旅行会社のデスクには、イスラム教の衣装に身を包んだ40代位の日本人女性が座っていた。
マリアムという名前だったので、たぶん現地の人と結婚しているのだろうと思った。
後で知ったのだが、多くの日本人観光客が彼女と話すことにより心の癒しを得ているという、旅行者の間ではちょとした有名人であった。
そしてこのひとりの女性の話が、オラの今後の旅にとっても大きな影響を与えた。
マリアムさんはスタッフに頼んだ旅の資料がそろうまでの間、みんなに色んな人生論を語ってくれた。
彼女独自の女性を中心とした人生哲学を語っていたせいか、その話に女性メンバーは興味津々であるが、ぷる君達男性メンバーは退屈そうだった……。
旅の情報を聞き終わると、みんなはそれぞれやりたい事があるようなので、一度ここで解散する事にした。
オラとマッキーはそのまま旅行会社に残り、マッキーの一時帰国の航空券を手配してもらった。
チケットの発券を待っている間もマリアムさんとの会話が続いた。
マリアムさんにオラが仲間と旅していることを告げると、マリアムさんは、リーダーシップを取っているオラのことを凄く褒めてくれた。しかしオラはこの時期、仲間との旅に精神的に疲れていた。
マリアムさんも表面上だけで話をしてくれているだけだと思っていたので、オラは軽く聞きながしているだけであった。
「あなたが仲間のリーダーでしょ、偉いと思うわ」マリアムさんは、オラの目を見ながらいった。
「偉くなんてないですよ、オラの方がみんなに助けてもらっている事の方が多いですし」
「そんなことないわ、大人数の仲間を引き連れて長期旅行をするのは凄い事よ」マリアムさんはオラが仲間の旅に疲れを感じているのを察してか、真剣なまなざしでいった。
「いえ、でもまだ半分しか来てないんですよ」
「すでに100日以上仲間と旅して来たんでしょ? あなたは凄い人間性の持ち主なのよ!」
マリアムさんは、今までの僕らの旅を見てきたかのように、リーダーの立場であるオラの人間性を、紙に描きながら一生懸命説明してくれた。
オラが悩んできた事を、まるでマリアムさんに全て見透かされているかのように感じた。
そしていつの間にかマリアムさんの話の魅力に取り込まれていたのだった。マッキーもオラの隣でマリアムさんの話に何度もうなずいていた。
窓の外を見ると、すっかり日が暮れていた。
結局3時間以上マリアムさんと話したことになる。
あまり褒められる機会のないオラは聞いていて少し恥ずかしくなったが、おかげで肩の力が抜けた気分であった。
焦りがなくなり、自信が湧いてきた。
自分のしてきたことを第三者に認めてもらえたことで、自信に繋がったのかもしれない。
マリアムさんありがとう。
更に仲間が加わり、新メンバーで旅することへの不安や仲間との別れの寂しさから、オラは精神的にくじけていたのかも知れない。
でもマリアムさんと話したことで、仲間での旅を成功させる自信を完全に復活できた。
更なる旅立ちにワクワクさえ感じる事ができた。
「ピンチになった時、救世主が現れる」そんな気分であった。
オラとマッキーはマリアムさんにお礼を言って建物から出た。
宿へ向かうカイロの街の冷たい風が、オラには心地よく感じられたのであった。