言葉の壁をぶち破れの巻
病院から宿に戻ると、あけちゃんの様子を心配する仲間達が、首を長くして待っていた。
「あけちゃん大丈夫?」仲間達があけちゃんの方に近寄り、彼女の顔色を覗き込んだ。
「うん、お腹の痛みは取れたみたい。
でも明日も朝から病院に行かないといけないの。」あけちゃんは、明日アンコールワット遺跡の観光に行けないことを悔やんでいた。
「やっぱりあけちゃんが、生水飲む前に、ちゃんと注意しとけばよかった……」アコちゃんは切ない表情で言った。
しかし、病気になってしまったものはしょうがない。
「みんなもこれから生水には気付けような?」と仲間で反省したのであった。
僕らは宿の敷地内にある受付の二階のサンセットバーに夕食を食べに行った。
ちょうど夕陽が沈む頃で空が真っ赤になっていた。サンセットバーではお洒落に南国風の音楽が流れていてリゾート気分を満喫しながらの食事であった。
奥にはバーカウンターがあり、飲み物はその場で作り、料理は1階の厨房からワイヤーを伝って手動で登ってくる仕組みであった。
オラが頼んだ今夜のメニューは、ビーフフライドライス2.5米ドル(約293円)とミックスジュース1.5米ドル(約176円)。
ビーフフライドライスは、チャーハンの上にお肉が乗っていてボリュームがあって美味しかった。
夜は特にうろうろできそうな場所も無かったので、僕らは引き続きサンセットバーでお酒を飲んでみんなとの会話を楽しんだ。
その後、宿のシャワー室でさっぱりした後、庭で夕涼みをしようと思い外に出ることにした。すると宿のお手伝いの女の子達7~8名が、スタッフ小屋前の板の間で仕事を終わらせ喋っているところであった。
ようちゃんが、「お手伝いの女の子の一人がイザポンのことタイプみたいやで」と言ってたことを思い出し、オラはひとりでその輪の中に入っていこうと思った。
別に下心がある訳ではないが、ようちゃんがいつも現地人とすぐ仲良くなっているのを見ていて、うらやましく思っていたからである。
オラはメンバーの中で一番英語が話せないし、積極的に人に話しかけるような人間でもない。
一人の時はとても心がナイーブな人間なのである。
しかし、今後の旅を楽しむためにもここは勇気を出してチャレンジしよう。
たぶん何とかなるだろうと思った。
オラは笑顔で彼女達に近寄っていった。
「チュムリアップスォ(こんばんは)」カンボジア語でオラが唯一使える言葉である。
彼女達は笑顔で会釈してきた。
そしてカンボジア語でなにかを言ってきた。
「%#$%#$*」
ん?何て?……。
うわぁーどうしよう、次に何を話したらいいか分からへん……。
オラの額からは汗が流れてきた。
こんなことなら少しでも勉強してきてから来ればよかった。
もうこうなったらやけくそや!
オラは、日本語でも英語でも何でもいいから単語を並べ、一生懸命ジェスチャーしながら自己紹介やらなんやらとにかく会話を試みた。
すると彼女達はクスクス笑いながらも、一生懸命理解してくれようとしてくれた。
そして彼女らもジェスチャーしながらオラに話をしてくれた。
一人の女の子が、別の女の子とオラの方を指差し、なにやらみんなでキャッキャッ言っている。
たぶんこの子達はその子とオラを冷やかしているんだとオラは思った。
最初はオラが会話の内容を勝手に解釈してそのまま会話を続けていくと、ん?と思うこともあったが、だんだん話しているうちに会話の内容がすぐにつかめるようになってきた。
彼女らはそれぞれ地元の村からスクーターで通い、バイトにきているのも分かったし、カンボジアはすごく低賃金で労働しているんだということも教えてくれた。
なんとか通訳が無くても理解する事ができたのである。
かれこれ1時間くらい経ったのだろうか。
そのうち英語の喋れるおばさんが、こちらに近づいて来た。
「この子達は、明日も早くから仕事があるから、早く帰してあげて?」ということであった。
仕方がないのでオラはその場からおいとますることにした。
やはり、人間、言葉が通じなくとも身振り手振りで、ある程度は会話ができるんだなぁと思った。
そして自分に少し自信が持てるようになった。