アクロポリスをはじめとする数々の遺跡やエーゲ海やイオニア海に浮かぶ美しい島々が魅力である。
1ユーロ=約165円 (2007年2月9日~11日)
1ユーロ=現在のレート
貧乏バックパッカーの巻
イスタンブールを2泊滞在した僕ら一行は、朝8時にツリーオブライフの宿を出発し、オトガルバスターミナルに向かう予定だ。
ムームはこの後、イスタンブールから僕らと逆戻りでイランへ向かうらしい。
危険なイメージの国ではあるが、しっかり者の君なら大丈夫であろう……。
ムームはチェンベルリタス駅のホームまで僕らを見送りに来てくれた。駅に着くと同時に、すぐに列車が来たのでみんなは慌てて列車に飛び乗った。
お別れの言葉を交わす前に電車のドアは無常にもあっさり閉まってしまった。
ムームが大きな声で叫んでいたのは分かったのだが、何を言っていたのかは誰も聞き取れなかった。
列車が出発しみかりんはムームが見えなくなるまでいつまでも手を振っていた。ムームと別れて一番悲しそうなのはやはりみかりんだった。
ムームは、彼女にとって弟のような存在であったからだ。
いつも隣に座っていたムームがいない……。
電車で一人悲しそうなみかりんを見てオラは切なく感じてしまった。
オトガルバスターミナルに到着した僕らは、昨日チケットを購入したバス会社に足を運んだ。
そこから大型バスに乗ってギリシャのアテネまでは21時間の長い旅である。アジアのおんぼろバスとは違って、ヨーロッパ圏のバスはさすがに揺れも少なくまぁまぁ快適なバスであった。
オラは次なる国への冒険心を抱きながら窓の景色を眺めていた。
バスに乗って数時間経つ頃「お腹空いたよ~」と仲間達の嘆く声が聞こえてきた。
そういやオラとようちゃんが朝寝坊して慌てて宿を飛び出してきたため、朝ごはんを食べずにバスに乗り込んだのだった。
しかもトルコリラからユーロに両替するのを忘れていたので、ユーロ圏に入ったここからは、もうリラは使えない。
お昼にバスが休憩所に停まった時も他の乗客が食事をしている姿を僕らは指をくわえて眺めていただけであった。
夕方休憩所に停まった場所が美味しそうなパン屋の前であった。
めぐみちゃんが「私少しだけユーロコインを持っていたの」と言ってパンを2つ買ってきてくれた。
「これだけしか買えなかったけど、みんなで食べようよ」そう言うとめぐみちゃんが、パンをメンバー6名分にちぎってみんなに分け与えてくれた。
ありがとう、めぐみちゃん。やっぱ持つべきものは友達だなぁ~。
国境移動のバスではたいていコーヒー、ミルクティー、ミネラルウォーター、スナックなどの車内サービスが行われる。
今回の長距離バスでも、最初にソフトドリンクが振舞われた。
腹続きの僕らはドリンクサービスが来るのを今か今かと待ち望んでいた。
しかし、最初の1回だけでなかなかドリンクが配られない……。
一度バスガイドと運転手がバスから離れる機会があった。
みかりんは、ここぞとばかりに、車内冷蔵庫のペットボトルを勝手に取り出し、自分のコップに注ぎだした。
オラや他の仲間もそんなの有りかよといいながらも、どんどん、勝手にドリンクを注ぎだした。
いきなりバスガイドが帰ってきて「こら! 勝手に飲むのはいけません!!」と注意されたが、再びバスガイドが車内から出た時に、誰かがペットボトルごとカバンに持って帰ろうとしたので、それはやりすぎやろ~と仲間から突っ込みが入った。
貧乏旅行が続くと怖いものである。
マッキーなんて、長旅での癖が抜け切れず、これから清潔なイメージのあるギリシャに入るというのに、バスの中で洗濯物を干し始める始末だ。先進国のおんぼろバスならあまり恥ずかしくもなかったが、さすがにヨーロッパ圏では、恥ずかしいと思った……。
朝方、国境に着いたのでみんなはゾロゾロとバスから降り始めた。
僕らはすでにもう何十回も国境移動をしてきたので、出入国審査も慣れたものだった。
最初の頃に比べるとかなり余裕も出てきていた。
バスから降りると、とつぜん出入国審監査員がオラに質問してきた。
「Do you like kimuti ?」
―― キムチ??? ―― なんで、「キムチが好きか?」なんて聞いてくるんだろう、この審監査員はただのお笑い好きか?……。
まぁ、好きだし「yes!!」 そのあとマッキーもキムチ好きかって聞かれたみたいだ。彼女も「yes」 と答えていた。
しばらくして審監査員に、「おまえら全員来い」と言われ、なぜか、僕ら仲間だけが建物に連れて行かれた。
他の乗客達は普通にバスに乗り始めている。
しかし僕らは一人ずつ部屋に入れられ現在持っている現金や帰国のチケットのことなど色々取り調べられた。
たぶん、キムチ好きのグループ=韓国マフィア集団と間違われたのだろう……。
「おい、オラはどう見ても中国人や韓国人には見えないだろう! インド人にネパール人と間違われた純粋な日本人だ!!」
しかし、審監査員達は僕らをなにかと疑い止まなかった。
所持金や今後の移動方法のことまで詳しく聞かれ、出入国審査書ではない、別の紙を出され、各項目を記入して提出しろと言われた。よく見ると、その用紙は韓国文字で書かれていた。
「オリャー!! だから僕らは日本人やっちゅうねん!!」
その後、メンバー一人ずつ建物に呼ばれ質問が繰り返された。
オラは英語が苦手なので審監査員との話がうまくかみ合わず、「はい、次の人とチェンジ!!」とすぐさま言われた。そしてメンバーの中でも一番英語の得意なみかりんの必死の説明が審監査員の心に通じ、おかげで全員無事にギリシャに入国することができた。
ただでさえお腹がぺこぺこで力が出ないのに、出入国審査で余計に体力を使ってしまった気分であった。
しかしギリシャに入って気分を新たに切り替えようと思ったのか? ようちゃんは、今までボロボロだったスニーカーやチノパンをトイレで脱ぎ捨て、新しい皮靴とパンツとジャケットに着替えた。
めぐみちゃんは、ジーパンをやめてロングスカートに履き替え、ヨーロッパ仕様の服装にチェンジしだしたのだった。
めぐみちゃんの変身姿に、みかりんとマッキーが、「めぐみちゃんずるいわ!! 自分だけオシャレするなんて、羨ましい……」と言っていたくせに、「スカートにバックパック姿って……」みたいな、ちょっと馬鹿にした発言をめぐみちゃんに聞こえない声で言っていたマッキーはやはり腹黒いなぁと思った。
夕日も沈んだ頃、僕らを乗せたバスは大きな街の休憩所に停まった。
そこでとうとうATMを発見した。「バンザーイ!!」
やっとユーロを手に入れたオラは、カップラーメンを2カップも食べてしまった。
みんなもそれぞれ20分程の休憩の間に色んなお店でそれぞれ、ホットドッグやピザを買い込んできた。
満腹になったオラはバスに乗り込みすぐに寝てしまった。
ギリシャのアテネには朝の7時に到着した。
僕らはバスステーションから地下鉄に乗り換え、シンタグマ駅に降り立った。地下鉄の階段を上がると広場になっており、国会議事堂がドカーンと建っていた。広場のまわりには、銀行やレストランやお洒落なカフェが立ち並んでいた。
今夜泊まる宿をガイドブックで調べていた駅近くのユースホステル(一人1泊10ユーロ=約1650円)に決めた僕らは、部屋に荷物を下ろすと早速街を探索することにした。
道路の中心にはトラムが走っており、近代的なかっこいい形の列車が僕らの歩いている横を通り過ぎた。
オラは列車に興味を持ったが、その時のめぐみちゃんは、すれ違う人達を見ていた。
「わぁ、ギリシャ人って独特な顔しているわぁ。まるで、彫刻が歩いているみたい♪」
たしかに鼻がやたら高くて角ばった顔立ちの人が多いように感じた。
仲間で旅をしていると、それぞれが違う視点で景色や物事を見ているので、色々気づくことが多くて楽しいなぁと思った。
宿からシンタグマ駅を通り過ぎ10分くらい歩くとゼウス・オリュンピオス神に捧げられた神殿の大理石の柱が見えてきた。
「おおっ、凄いなぁ思ったより巨大やん!!」
早く近くで見たいと思い、僕らの足取りも少し速くなっていった。
しかしゼウス神殿のある公園内に入ると神殿よりもまず僕らの心を引き付けるものがあった。
公園の木にオレンジが生っているのを発見したのである。
近くのベンチにおじさん達が座っていたので、勝手に取ったら怒られるのじゃないかと警戒した。
木に生えたオレンジを物欲しそうに眺めていたら、おじさん達が食べろ、食べろと、合図をしてきたので、ようちゃんが木に登り、オレンジを一個取りかぶりついた。
「これ、めっちゃうまー!!」その言葉を聞いためぐみちゃんもスカートのまま必死で木に登り、オレンジにむしゃぶりついた。
「ほんま甘くて美味しいわ♪」僕らは、観光そっちのけでこの時ばかりは、オレンジに夢中になっていた。
ギリシャで僕ら何してるねーん!!
ゼウス神殿の入場口では、太っちょのおばさんが、受付をしていた。
パルテノン神殿のあるアクロポリスの丘共通入場料が12ユーロ(約1980円)・ゼウス神殿単独だと2ユーロ(約330円)、明日行くと入場料が全て無料だと言われた。
「えっ、無料!?」みんなは、声を揃えて言った。
明日は、早くもイタリアへの移動を決めていた。
でもアテネをお昼に出たら間に合う。じゃ明日の午前中にアクアポリスとゼウス神殿の観光をずらそうということになった。
「明日は無料なんですか?」たまたま僕らの後ろに並んでいた日本人の、女子大学生の2人組みが、話しかけてきた。
「そうみたいですよ、予定が空いたんで、これからアテネの街が一望できるリカビトスの丘に行くのですが、良かったらみんなで一緒に行きませんか!?」
さすがようちゃん、女子大学生を見たとたんに今後の予定をとっさに決められるなんてさすがだと思った。
女子大生の2人名前は、れいちゃんとえりかちゃん。卒業旅行でギリシャに来たのだと言う。
そういう訳で女子大学生2人を含めた僕ら一行は、リカビトスの丘まで歩いて行くことにした。
その前にお腹が空いてきたので、えりかちゃんが、日本から持ってきたガイドブックに載っているレストランで食事を取ることにした。
シンタグマ広場からすぐ近くのお店でお洒落なテラスのある可愛いカフェレストランであった。
みんなはそれぞれ好みの料理を頼み、オラは『ムサカ』(8ユーロ=約1320円)を頼んだ。
ムサカとは、ラム肉、スライスしたナス、トマトを何層にも敷き、上にベシャメルソース(ホワイトソース)をかけてオーブンで焼きあげる伝統料理である。
味はラザニアみたいでとっても美味しかった。
えりかちゃんが、ウエイターの男の人に日本のガイドブックを見てきたのだというと、店の奥から白髪交じりのオーナーのおじさんが出てきて、陽気な笑顔で挨拶をしてきた。
オーナーのおじさんは、「日本からようこそ来てくださった」と言って、なんと僕らにワインやケーキをご馳走してくれた。
たまたまガイドブックに載っていたお店に来ただけなのにこんなにサービスしてもらっていいのだろうか? 僕らは、何度もお礼を言ってお店を出たのであった。
リカビトスの丘に向かって歩いていると途中に旧オリンピックスタジアムの前を通りがかった。
2004年アテネオリンピックのマラソンのゴールに使われていた場所である。
そこから更に歩いて、長い坂道と階段を上がるとケーブルカーの乗り場があった。
往復5ユーロ(約825円)だ。それに乗っていけばリカビトスの丘の頂上にたどり着ける。
歩いて登ることもできるが、標高273メートルのこの山を登るのはちょっとしんどいと思ったので、やはりケーブルカーに乗って行くことにした。
頂上にはおしゃれなカフェと教会があり、360度見渡せる景色が目の前に現れた。
丘の上から見下ろすと白を基調とした建物がびっしりと細かく連なっていた。
遥か遠くには海が見渡せ、その手前にはパルテノン神殿が建つアクロポリスの丘が見えていた。
「わぁーすげーなぁ!!」オラは思わず声を上げた。
みんなも景色に感動したのか、しばらくその場から動こうとはしなかった。
古代遺跡とロマンに満ちたこのアテネの絶景は僕らの脳裏にしかりと焼きついたのであった。